トラック・物流Gメン集中監視月間と物流下請法 2026年に向けて本気で備えなければ淘汰される

1.ますます強くなる規制の波と迫り来る物流下請法の適用

トラック運送事業者・物流事業者や荷主、元請、サプライチェーンに関わるすべての企業にとって、いま業界の環境は過去にないほど厳しくなりつつあります。国土交通省が進めるトラック・物流Gメンの体制強化と集中監視月間は、単なるキャンペーンではなく、業界に向けられた明確な警告です。そして2026年1月に施行される改正下請法(取適法)は、物流取引の在り方そのものを根底から変えてしまいます。

もし今から本気で対策をうたなければ、2026年を迎えて違反の指導、行政処分、そして企業名公表による信用失墜、さらには取引喪失といった深刻な事態に直面する可能性が極めて高いです。荷主企業の皆様はトラック・物流Gメンの動向集中監視月間の意味を整理し、物流下請法の改正内容を解説したうえで、業界がどのように準備すべきかを警告的にお伝えします。

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2.トラック・物流Gメンと集中監視月間の本質

2023年に創設されたトラック・物流Gメンは、荷主や元請運送企業による不適正な取引慣行を監視・是正するための専門部隊です。創設から2年で既に1949件の勧告(4件)・要請(188件)・働きかけ(1757件)を行っています。(2025年8月31日現在)

当初は、トラックGメンの名称で荷主の工場や物流センターを中心に是正指導していましたが、荷待ち時間の削減には、着荷主の協力が必須であることから着荷主倉庫への意見聴取や情報収集も行うとして2024年11月にトラック・物流Gメンへと名称変更しています。

新体制になって直ぐの2024年11月・12月に第1回トラック・物流Gメン集中監視月間が設けられこの2か月間で勧告2件、要請7件、働きかけ423件の是正指導が行われました。

これまでの勧告4件はすべてが複数の物流拠点による長時間の荷待ちで、要請や働きかけを行ったにもかかわらず改善がされていなかった場合です。これらの行為は、トラックドライバーの過重労働に直結するものであり、国土交通省は昨年の名称変更時に体制を大幅に強化しています。国土交通省・運輸局の職員をトラック・物流Gメン専任にするだけではなく、100名超のトラック協会の職員もトラック・物流Gメインに加わっています。

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3.2025年の集中監視月間は物流下請法改正の前哨戦

2025年10月から11月にかけて、国土交通省が主導するトラック・物流Gメンによる集中監視月間が全国で実施されます。

年のテーマは例年と異なり、荷主パトロールを全国規模での実施と公正取引委員会連携した本格的な合同監視が大きな特徴です。これは、2026年1月に施行予定の物流下請法改正(下請法への「特定運送委託」の追加)を見据えた前哨戦として位置づけられています。

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(1)荷主に焦点を当てた「合同荷主パトロール」

これまでの集中監視月間のパトロールでは、主に大手元請運送事業者中心の

調査や是正指導が中心でしたが今年は荷主に対して実施すると明言しています。(2026年9月26日国土交通省発表)

各地方運輸局と公正取引委員会が連携し、荷主企業の営業所・物流拠点への合同荷主パトロールを実施します。

特に、10月28日(火)・29日(水)には東京都内で大規模荷主合同パトロールが実施され、公正取引委員会との合同チームが複数班に分かれて荷主拠点や主要駅周辺の本社を訪問します。

この2日間はマスコミも同行取材を行う予定であり、現場で指導を受けた荷主企業は全国ニュースで報道される可能性があります。

形式的な啓発活動にとどまらず、違反リスクの高い企業が可視化される初のケースとなるでしょう。 

さらに、高速道路のサービスエリアやパーキングエリアでトラックドライバーへの聴き取り調査も並行して行い、荷主による長時間荷待ちや不当な指示の実態把握を強化します。

どの企業が調査対象となるかは明示されていませんが、国交省はすでにトラック・物流Gメンが本年8月に実施した全トラック事業者への違反原因行為の実態調査や、倉庫業者に対する寄託者(荷主側)の振る舞い調査、さらに関係省庁から寄せられた情報を総合的に活用するとしています。

この結果、違反原因行為の疑いがあると認められた荷主・元請事業者には、個別に是正指導(要請働きかけ)が行われる予定です。

言い換えれば、どこに調査が入るかはすでに行政側がリスト化を進めている段階にあり、荷主にとっては事前通知のない抜き打ち訪問が想定される極めて実務的な監視となります。

この全国規模の合同パトロールでは、トラック・物流Gメン360名が東京に集結し、公正取引委員会本局との合同出発式が予定されており、国としても異例の体制で臨む監視月間となります。

(2)「荷主パトロール」は何を狙うのか

合同パトロールの狙いは、単なる現場チェックではありません。

公正取引委員会が持つ下請法に基づく調査権限と、国交省が持つ貨物自動車運送事業法に基づく行政指導権限を組み合わせ、荷主行為の構造的な違反原因を洗い出すことにあります。

具体的には以下のような行為が重点対象となります。

  • 長時間の荷待ち・荷役作業の押し付けなど、法令上の「違反原因行為」
  • 不当な運賃・料金設定、協議に応じない一方的な代金決定
  • 倉庫事業者や下請事業者に対する不当な契約条件変更
  • 書面交付・電磁的記録保存の不備

 

これらは2026年1月から下請法の対象となる特定運送委託に直結するテーマであり、今秋の監視は、来年施行後の行政運用のリハーサルでもあります。

(3)「Gメンアシスタント事務局」の設置と監視体制の拡充

さらに、今年度からは新たにGメンアシスタント事務局が設けられ、デロイトトーマツコンサルティングが外部委託先として参画します。

Gメンの活動情報を分析・集約し、全国の荷主行動データをもとに重点指導企業を抽出する仕組みが導入されます。これにより、調査と是正指導のスピードが格段に上がることが予想されます。

また、倉庫事業者向けの通報窓口も地方運輸局レベルに拡大され、違反行為の通報・情報提供が容易になります。トラックドライバーや中小運送事業者からの通報⇒デロイトトーマツが分析⇒トラック・物流Gメン及び公正取引委員会が是正指導といった、一連の流れが全国規模で常設化されるのが今年の特徴です。

(4)荷主企業に求められる対応

今回の集中監視月間は、単なる行政イベントではなく、2026年の物流下請法改正を前提とした実地試験です。

今後、違反原因行為に該当すると判断されれば、是正指導だけでなく、公正取引委員会による勧告や企業名公表に発展するリスクがあります。

荷主企業としては、次の点を直ちに点検することが求められます。

  • 運送・倉庫委託契約書の内容(運賃決定・作業範囲・支払期日など)
  • 書面交付・電磁的保存体制の整備状況(契約書だけでなく日々の運送申込書も発行しているか)
  • トラックの荷待ち時間・契約にない附帯作業指示をしていないかどうか。
  • 物流部門だけでなく、製造・調達・営業部門との連携での対応できる体制

(5)2026年改正への前哨戦

2025年の集中監視月間は、荷主にとっての物流下請法の前哨戦です。

これまでのようにトラック・物流Gメンは、貨物自動車運送事業法を取り締まる組織であり元請運送事業者を中心に要請や働きかけを行う、と考えていると

来年からの改正で思わぬ形で企業名が挙がる可能性があります。

監視の矛先は確実に荷主側に向いており、企業の取引行動そのものが法令遵守の対象になる時代が始まります。

物流下請法改正に向け、今年10月・11月の動きを単なる行政のイベントとしてではなく、自社のリスクマネジメントの出発点として捉えることが重要です。

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4.なぜ、今回公正取引委員会が前面にでてきたのか?鍵は「面的執行の強化」

今回の集中監視月間に公正取引委員会が加わった理由は、2026年1月の下請法改正の項目として決定されている面的執行の強化にあります。

面的執行の強化とは、関係行政機関(物流の場合は国土交通省)に指導・助言の根拠を与え、相互の情報提供を制度化し、連携して広範に是正していく仕組みとして位置づけられています。具体的には、①主務大臣(国土交通大臣)にも指導・助言権限を付与、②相互情報提供の規定新設、③省庁横断の下請Gメン、トラック・物流Gメン等を活用した域・同時多発的な面での執行を意味しています。(公正取引委員会資料より)

公式文書では、少しわかりづらいかもしれませんが、個別の通報や単発事案を追う点の対応ではなく、業界・地域・サプライチェーン全体を面で覆うかたちで一斉に把握・是正していく面の執行モデルを指します。具体的には次のような運用です。

  • 国土交通省、公正取引委員会、下請Gメン、トラック・物流Gメン、業界団体、各種通報窓口の複線的な情報を統合し、違反原因行為の多発領域をあぶりだします。
  • 荷主の本社・拠点・現場を同時多発的にモニタリングし、同種行為を横串で是正します。これにより荷主は段階的に改善しているのではなく全社一斉に対応せざるを得ない状況になります。
  • 企業単位の改善にとどめず、契約様式・運用ルール・記録様式まで共通項目を標準化し、業界全体への警告を与える。
  • 一度の注意喚起で終わらせず、改善計画⇒改善の実施⇒フォローアップ監査までのサイクルを面で継続する。
  • 悪質・重大なケースは、下請法よりもさらに厳しい独占禁止法の優越的地位の濫用を適用し高額な課徴金の支払い、企業名公表に持っていく

つまり、トラック・物流Gメンは、物流下請法の運用における公正取引委員会の別働部隊となる訳です。まずGメンが現場で是正指導(働きかけ)を行い、提出された改善計画が甘い、あるいは改善内容が中途半端と判断されれば、次の段階として下請法(改正後の特定運送委託を含む)に基づく勧告確約手続に移行します。確約手続では、企業が自ら違反行為の停止・再発防止策・被害回復措置を約束し、公取委がこれを受け入れるかどうかを判断します。内容が不十分であれば受理されませんし、フォローで実効性が確認できなければ、追加の法的措置や周知に発展し得ます。

結論として、今年の集中監視は、毎年の恒例イベントを思っていれば痛い目にあります。来年からの改正下請法を前に荷主の契約・委託運用・現場指示の全層を面で点検し、未整備の企業は今の間にできる限り是正をしていきましょう。2026年からはトラック・物流Gメンと公正取引委員会が同時にやってきます。ここを甘くみると確実に、名前が挙がってしまいます。

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5.下請法には個人の刑事罰があります

下請法には刑事罰があります。書面交付・記録作成保存・報告拒否/虚偽報告・検査を拒否する、妨害するなどを行ったときは、刑事罰(罰金刑)が処されます。これはその人にとって前科になってしまいます。懲戒処分・取締役責任・転職時の不利益に直結します。現場担当者・管理者・役員まで刑事罰の対象になります。まずは発注書面、契約書・仕様書の確認、保存しなければならない書類の整理を今日から整える。ここができていなければ、値決めの際の買いたたきや長時間の荷待ちを強要している以前に即アウトです。

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6.2025年はまだ前哨戦、2026年からが本番

トラック・物流Gメンの集中監視月間は、行政が本気で動き出した証拠です。そして改正下請法の施行は、物流業界にとって歴史的な分岐点となります。

トラック・物流Gメンや公正取引委員会の立入検査が怖い、でもどうしたらいいかがわからない。で終わらせてはいけません。2026年に何もしないで無策で突入すれば、本当にえらいことになります。契約、体制、交渉、そしていままでやってきた業務のやり方や企業文化そのものを変える覚悟を持って、いまから全力で準備を進める必要があります。

業界の未来を守れるのは、法令を正しく理解し、真剣に対策を講じる企業だけです。今こそ備えなければ、生き残ることはできません。

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7.物流下請法適正化プロジェクトで支援いたします

特に重要なのは、何がアウトなのかを明確に理解することです。経営層はもちろん、現場の管理者に至るまで、物流下請法の下で問われる責任を正しく認識し、契約・委託運用・業務遂行の各段階で取るべき行動を実務レベルに落とし込む必要があります。単に法令知識を知っているだけでは足りず、それを自社の仕組みや日常業務にどのように組み込むかが問われているのです。

当事務所では、こうした荷主の物流委託改善を支援するために、物流下請法適正化プロジェクトを実施しています。これは1年限定・オーダーメイド型の有償伴走プログラムであり、独自に開発した50項目診断チェックリスト>を用いて、貴社の現状課題・できているところ・できていないところを徹底的に可視化します。そのうえで、契約内容、委託運用、社内体制を段階的に是正し、本社部門と、物流を委託する製造・営業など現場の両面に伴走して改善を進めていきます。必要に応じて、社内研修、運用ルール、監査、2年目以降の自走化スケジュールなど一気通貫で改善活動を支援します。最終的には、物流下請法違反リスクを可能な限りゼロに近づけることを目標としています。

※プログラムの詳細や開始時期については個別にご案内いたします。まずは現在のご状況をお知らせください。

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・2025年12月「物流下請法」の本を出版します
・【2026年1月から適用】製造・流通業の荷主企業が知っておくべき運送委託に関する下請法改正のポイント
・荷主のための物流下請法対応マニュアル
・運送業コンプライアンスマニュアル(運送業2024年問題対応)
・物流下請法の誤解と真実
・物流法務担当が見た荷主視点のコンプライアンス
・【製造業は要注意】物流下請法違反は法人や個人にも刑事罰が及びます
・長時間の荷待ちの原因とその対応についてー物流下請法施行を前に荷主はサプライチェーン全体への影響を回避すべきである