
2026年4月の法改正を目前に控え、物流下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律に名称変更予定)への注目は高まりつつあります。
うちは対象外と思い込んでいる荷主が見落としている4つのポイント

しかし、現場で荷主企業の担当者や経営者と話をすると、依然として
という声を頻繁に耳にします。
中には、日常的にヤマト運輸や佐川急便に荷物を渡して発送しているにもかかわらず、自分たちは運送を委託しているわけではないと考えているケースがあります。さらに、赤帽のような個人事業・零細運送者に荷物を渡すことについても荷物1個だけだから下請法とは無関係と思い込んでいる例が少なくありません。
実際には、赤帽のような事業者はほとんどの場合が下請法の対象に該当し、委託する側は業種や取引規模に関係なく荷主としての義務を負う可能性があります。
荷主=製造業や卸・小売業に限られるというのも、根強い誤解です。実態としては、全ての業種で外部の運送事業者へ委託すれば、取引条件によっては荷主となり得るのです。IT企業でも、イベント会社でも、建設業でも、外部の運送業者に運搬を依頼すれば、法律の枠組みの中で荷主に位置づけられる可能性があります。
こうした誤解や思い込みは、法令の対象範囲や運用実態を見誤らせ、結果として知らないうちに違反行為を繰り返すことにつながります。違反が発覚すれば、勧告や社名公表など重大なリスクに直結します。
うちは対象外と思い込んでいる荷主が見落としがちな4つのポイントを整理し、正しい理解への第一歩とします。
<ポイント1> 業種ではなく取引関係で判断される

物流下請法は、特定の業種や企業規模だけを対象にしているわけではありません。
対象かどうかは取引の構造、すなわち親事業者と下請事業者の間の関係で判断されます。
現場でよくある誤解は、うちは製造業や流通業ではないから関係ないというものです。
実際には、IT企業や広告代理店、サービス業であっても、外部の運送事業者に業務を委託すれば荷主としての義務が発生する可能性があります。
例えばイベント会社が資材を会場に搬入するため運送会社を使ったり、広告会社がカタログやパンフレット等の印刷物や展示物を発送したり、IT企業が修理品や機器を顧客へ配送するよう委託するケースも対象となり得ます。
特に重要なのは、2026年1月から特定運送委託という新たな取引類型が明確に追加されることです。これにより、修理業や情報成果物の配送などの分野も明確に対象に含まれます。つまり、これまで業種が違うから無関係と判断していた企業も、実は適用範囲に入ってくる可能性が高まるのです。
具体的な対象例としては
- 年商が一定規模を超えている
- 外部の運送事業者に対して継続的に運送・保管・附帯作業を委託している
- 契約関係が下請法の親事業者の条件に該当する
こうした場合、業種やビジネスモデルに関係なく、下請法の規制対象となります。
業種ベースで自社を対象外と判断することは、制度の本質を見誤る危険な行為です。
<ポイント2> スポット契約のつもりでも継続的取引とみなされる重大リスク

うちはスポット契約しかしていないから下請法の適用外と考える企業は少なくありません。しかし、実務では“スポット契約”と思っていても、実態は継続的取引かつ契約書未交付という二重の問題になっているケースが多く見られます。
- 案件ごとに契約書は作らず、メールや口頭で毎回同じ運送業者に依頼している
- スポット発注のつもりでも、月単位・年単位で継続的に依頼を繰り返している
- 年度契約はないが、実質的に同じ業者との取引が何年も続いている
これらは形式的には単発でも、取引の継続性が認められれば下請法の継続的取引に該当します。しかも契約書を交わしていない場合、下請法が求める書面交付義務を果たしていないことになり、単なる勘違いでは済まない重大な法令違反に発展します。
継続取引かスポット取引かを見分けるポイント
発注頻度 | 一定期間内に同一業者へ繰り返し依頼しているか |
取引の期間 | 1年以上にわたり同じ委託先と関係が続いているか |
業務内容の固定性 | 毎回ほぼ同じ内容・条件での依頼になっているか |
代替可能性の有無 | 特定の委託先に依存していて、他業者への切替え実績がないか |
これらの条件が複数当てはまる場合、契約形態にかかわらず継続的取引と判断されやすくなります。
<ポイント3> グループ会社間取引ではトンネル会社規制が適用される

物流下請法は、単純な親会社―下請事業者間の取引だけでなく、グループ会社を経由した取引にも適用されます。
例えば、親会社が直接委託すれば下請法の対象となるケースであっても、資本金3億円以下の子会社を経由して委託している場合、その子会社がみなし親事業者と判断され、下請法の規制を受けることがあります。これがトンネル会社規制です。
この規制が適用されるのは、以下の要件を2つとも満たす場合です。
支配関係の要件 | 議決権の過半数を親会社が保有している、または役員構成や業務執行において親会社が実質的に支配している。 |
取引再委託の要件 | 親会社から受けた委託額または数量の50%以上を再委託している、もしくは同等の割合で他の事業者に委託している。 |
このような場合、形式上は子会社が委託した形であっても、実質的には親会社から下請事業者への委託とみなされ、下請法が適用されます。
グループ会社内の取引であっても、資本金・支配関係・再委託割合といった要件次第で対象になるため、自社グループの委託フローを見直し確認することが重要です。
<ポイント4> 運送費の不透明化と附帯作業の実質無償化も規制対象

物流下請法の対象は、単なる運送費だけではありません。
委託契約の中で、運送と附帯作業の対価の扱いが不明確になっている場合も、法の規制を受ける可能性があります。現場でよく見られる問題は、次の2つです。
1.業務委託費に一括され、運送費が不明確
据え付け作業や現場作業など、運送以外の業務とセットで委託する場合、業務委託費や作業一式費用として一括請求・一括支払いしているケースがあります。
この場合、契約や請求書の中で運送費がいくらか明確に分けられておらず、実際に運送部分にどの程度の対価が支払われているのか把握できません。
下請法の運用上、運送委託に該当する部分は明確化し、適正な対価を設定する必要があります。
2.運送費の中に附帯作業を含め、実質無償化
反対に、運送契約の中に荷役・検品・梱包・仕分け・ラベル貼付・返品処理などの附帯作業を含めてしまい、追加対価を設定しないケースも多く見られます。
見かけ上は運賃込みとして処理していても、実際には附帯作業にかかる労力・時間分の対価が支払われておらず、実質的な無償提供となってしまいます。
これは不当なコスト転嫁として、下請法で禁止されている典型的な違反類型の一つです。
対策の方向性
- 契約・請求段階で運送費と附帯作業費を区分して明示
- 附帯作業が発生する場合は、事前協議・追加費用の設定をルール化
- 一括請求やコミコミ運賃処理は極力避け、実態に即した内訳を明示する
<まとめ> ルールが変わった今こそ、正しい知識と行動が必要

2026年の改正によって、物流下請法の運用ルールは大きく変わります。
これまでの慣習や自己判断では済まされず、いままでどおりでは確実にリスクを抱える時代になりました。
だからこそ、正しい知識を身につけ、今から行動することが不可欠です。
見落としやすいポイントは、次の4つです。
1.業種で対象外と判断する誤解
IT・広告・サービス業など、物流と直接関係がない業種でも、外部に運送を委託すれば対象になる。さらに2026年1月からは特定運送委託が追加され、修理業や情報成果物配送も明確に対象化。
2.グループ会社経由の委託(トンネル会社規制)
資本金や支配関係、再委託割合によって、形式上の委託先ではなく実質的な親会社が規制対象になる。
3.スポット契約の誤認と契約書未交付
単発のつもりでも実態は継続取引、しかも契約書を交わしていないため書面交付義務違反となるケースが多い。
4.運送費と附帯作業費の不明確化
業務委託費として一括し運送費が不明確になっているケースや、運送費の中に附帯作業を含めて実質無償化しているケースは典型的な違反類型。
物流下請法の自主チェックをはじめましょう
- 自社の取引構造を棚卸しし、対象関係やグループ内取引を確認
- 契約書・発注方法・支払い条件を見直し、附帯作業も含めた費用負担を適正化
- 継続取引とスポット取引の線引きを明確にし、契約書交付を徹底
- 関係部署への社内研修や外部セミナー参加で法令理解を底上げ
2026年1月の施行までは一見余裕があるように見えますが、契約見直しや運用ルール変更には数か月単位の準備期間が必要です。ルールが変わった今こそ、正しい知識と即行動が、法令遵守と企業競争力の両立を実現します。