長時間の荷待ちの原因とその対応についてー物流下請法施行を前に荷主はサプライチェーン全体への影響を回避すべきである

―貨物自動車運送事業法から物流下請法施行への流れ―

1.はじめに 

はじめに

令和7年1月、国土交通省は大手物流企業に対し、貨物自動車運送事業法に基づく勧告を行いました。理由は、運送事業者に対して長時間の荷待ちを強いていた事実が確認されたためです。貨物自動車運送事業法、物流効率化法が改正されて規制強化される中で、この勧告は今後の動きを象徴するものではないか、と見ています。

物流現場における長時間の荷待ちは、長年解決できない大きな課題であり、この勧告はいままでなら、運送事業者の問題と見られていた長時間の荷待ち問題も、今後は、荷主、はたまた着荷主やそこから委託されている倉庫会社まで業界全体に強い警鐘を鳴らすものと言えると思います。

今回は、この事例を通じて貨物自動車運送事業法の仕組みと課題を整理し、さらに2026年1月に施行される物流下請法との関わりについて解説していきます。

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2.貨物自動車運送事業法での勧告

貨物自動車運送事業法での勧告

貨物自動車運送事業法は、運送事業者の安全確保と公正な取引を守るための法律です。荷主や元請運送事業者が下請運送事業者に不当な条件を押し付けることを防ぐため、行政は段階的な是正措置を講じることができます。

具体的には、まず要請働きかけによって改善を促し、それでも状況が改まらなければ勧告という形でより強い措置が取られます。今回の事例では、令和5年12月に是正要請が行われたものの十分な改善が見られず、ついに勧告に至ったことが公表されています。

こうした取締り強化の背景には、トラックGメンの設置があります。令和5年7月に発足した同チームは、令和6年11月にトラック・物流Gメンへと名称を改め、活動領域をさらに拡大しました。令和7年6月30日までの実績は、勧告4件、要請187件、働きかけ1668件と公表されており、従来にないスピードと件数で行政対応が進められています

注目すべきは、トラック・物流Gメンの活動が元請運送事業者だけにとどまらず、荷主への調査・指導を強化している点です。すなわち、従来は運送事業者の問題とされがちだった不適正取引が、今では荷主自身の法令遵守責任として責任を問われるようになってきています。

このように、貨物自動車運送事業法の下では、単なる指導だけで終わるのではなく、改善が進まなければ行政による勧告要請働きかけ、そして社名公表といった強制力ある措置に移行していきます。そして、その矛先は確実に荷主へも向けられつつあるのです。

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3.長時間の荷待ちの構造的課題

長時間の荷待ちの構造的課題

物流業界における長時間の荷待ちは、単純に現場オペレーションの改善だけで解決できるものではなく、業界全体に根付いた構造的な課題です。背景には、以下のような要因が複雑に絡み合っています。

荷主側の都合による積み込み・積み降ろしの遅延生産計画や販売計画の変動により、予定どおりに貨物が準備されず、ドライバーが待たされるケースが後を絶ちません。
倉庫や工場の受け入れ能力不足限られたトラックバースの数や人員不足により、一度に処理できるトラックの台数が制約され、待機列が常態化しています。
予約システムの未整備などデジタル化の遅れ一部企業では搬入予約システムの導入が進んでいますが、まだ業界全体では普及しておらず、現場での搬入・搬出調整が属人的に行われています。
再委託の多層構造による責任の曖昧化元請・下請・孫請と階層が重なるなかで、どこが荷待ち発生の原因を是正する責任を負うのかが不明確になり、問題が放置されがちです。
着荷主と荷主の関係、および倉庫内作業の再委託多層構造荷主が物流を委託した先の着荷主拠点で、倉庫業務がさらに再委託される場合、入庫・出庫作業の遅れや人員不足が発生します。荷主自身が直接関与していないため改善が遅れ、結果的にドライバーの荷待ちを長引かせる要因となっています。

これらの問題が積み重なることで、トラックドライバーの長時間労働の大きな一因となっています。荷待ちが延びれば拘束時間が直ちに増加し、安全面・労働環境の悪化に直結します。

さらに深刻なのは、こうした実態を現場の一部担当者は把握していても、経営幹部は十分に認識していないことです。荷待ちは現場の小さな不具合として扱われ、経営会議や取締役会で議論されないまま放置され、同じ課題が繰り返されています。

したがって、長時間荷待ちを解消するには、運送事業者だけの努力では不十分です。荷主や着荷主、倉庫事業者、さらには小売・製造業までを含めたサプライチェーン全体の仕組み改革が不可欠だと思います。

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4.サプライチェーン全体への影響

サプライチェーン全体への影響

今回の勧告は、一運送事業者の問題ではなく、物流を取り巻く業界全体に突き付けられた警告です。貨物自動車運送事業法の下では、是正要請を軽視すれば勧告へ、さらに改善が見られなければ命令や公表へと進む段階的措置が取られます。この仕組みがトラック・物流Gメン発足後にすでに4件も行われているということは、他の荷主や元請運送事業者に対しても強い抑止力となっています。

重要なのは、この問題が運送会社だけの課題ではなく、サプライチェーン全体に波及する構造的リスクだという点です。長時間の荷待ちはドライバーの労働時間や安全に影響するだけでなく、納期の遅延、在庫コストの増加、ひいては消費者への供給安定性にまで直結します。

したがって、改善にはサプライチェーンの各プレイヤーが責任を分担し、連携して取り組む必要があります。製造業等の荷主流通業等の着荷主倉庫事業者元請運送事業者下請運送事業者など多様な主体が、共同配送の推進、パレット・コンテナの標準化、トラックバース予約システムの導入、倉庫内作業の再委託構造の是正といった改善を1つずつ行っていかなければなりません。

物流を効率化するということは、自社の競争力を強化するだけではなく、社会全体のサプライチェーンを持続可能にすることです。

今回の勧告は、1つの運送事業者に対してですが、そのことを改めて可視化した出来事であるといえるでしょう。

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5.物流下請法施行を見据えて

物流下請法施行を見据えて

今回の勧告は貨物自動車運送事業法に基づくものでしたが、その根底にある問題は明らかに荷主と運送事業者の関係性です。そして、2026年1月から施行される物流下請法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)は、まさにその関係性に対して、すなわち委託・受託の下請取引に対して、これまで以上に直接的な規制を及ぼすことになります。

物流下請法の下では、元請運送事業者だけでなく荷主も長時間の荷待ちや契約にない無償での附帯作業を行わせれば、下請法違反に問われます。しかも、下請法は管轄が今までの国土交通省ではなく、公正取引委員会です。

これは単なる形式的な義務で書類さえそろえておけば何とかなるといった問題ではなく、荷主の物流委託の実務全般を1から見直して自社の委託形態は法令違反をしていないか、について見直しをしていかなければなりません。

行政の監視対象は運送会社から荷主自身へと確実に広がっていきます。委託の仕組みや契約内容の不備は荷主のコンプライアンス問題そのものとして扱われる時代になっていきます。

重要なのは、これまでのように物流は外注だから、自社に直接の責任はないと考えていては通用しないということです。まかせているつもりでも、もし委託先が法令違反をすれば、荷主からこういった指示がでていた、書面で取り決めがないまま委託がおこなわれていたなどの事象が発覚すれば、荷主の責任として行政から指導・処分の対象になりかねません。つまり、大丈夫だろうではなく、あなたの責任になるという危機感をもって臨まなければならないのです。

今回の事例は、まさにその未来を先取りした警告といえます。荷主企業は、委託先の管理体制契約条項の精査社内の法令遵守体制の強化などを主体的に進めなければなりません。物流下請法施行後は、こうした取り組みが経営の必須課題として位置付けられるのは間違いありません。

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6.当事務所の支援体制

当事務所の支援体制

物流下請法の施行を前に、荷主企業からは何から対応すればよいのか分からないという声が多く寄せられています。当事務所では、単なる法解説にとどまらず、独自に開発した50項目による荷主の物流委託チェックシートを用いて現状を可視化し、実務に直結した改善支援を行っています。このチェックシートは、委託契約の条項や現場運用の実態を多角的に確認できるよう設計されており、リスクの所在を短期間で把握することが可能です。

また、物流下請法でどのようなことに注意しなければならないのか何が違反行為になるのかについて具体的事例をあげての研修会を開催しています。これにより購買部門・物流部門・法務部門などの担当者が共通認識を持てるようサポートしています。現場担当者だけでなく経営幹部にも課題を理解していただくことで、組織全体としての対応力を高めることを重視しています。

当事務所の具体的な支援内容は以下のとおりです。

リスク診断委託契約・発注書・現場オペレーションをチェックシートで点検し、物流下請法違反リスクを「見える化」。
契約書の見直し不当な再委託や無償作業の強要と評価され得る条項を修正し、荷主として適正な契約モデルを提示。
改善計画の策定荷待ち時間の削減、トラックバース予約システム導入、再委託の透明化など、現場改善につながる具体策を計画化。
社内研修会管理職から現場担当者まで、物流下請法や実務事例を踏まえた教育を実施。経営層へのブリーフィングも対応。
フォローアップ支援計画を策定しただけで終わらせず、実行段階でのアドバイスや進捗確認を行い、定着まで伴走。

法改正に先回りして取り組むことは、法令違反の回避だけでなく、取引先や社会からの信頼確保にも直結します。今回の勧告事例が示すとおり、荷主も主体的な行動が求められる時代です。当事務所では、荷主企業が安心して物流を委託できる体制づくりを、実務に即して全力でサポートしてまいります。

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7.物流下請法の解説書を出版します

2025年12月、当事務所代表・楠本浩一が執筆した解説書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド』を刊行いたします。

本書は、2926年1月に施行される物流下請法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)を、荷主・元請物流会社双方の視点から徹底的に解説した国内初の実務ガイドです。単なる法令条文の紹介にとどまらず、勧告指導確約手続といった事例を盛り込み、現場で直面する長時間の荷待ち多重下請構造コスト転嫁適正化などの具体課題をどう克服するかを実務目線で解き明かしています。

本書の特徴

違反とセーフが一目でわかる荷主の物流委託で「どこまでが違反で、どこからが適正か」を具体的に解説。リスクの有無を一目で把握できます。
単なる法令解説ではなく『実務書』条文の読み替えではなく、現場で直面する実務課題に即した視点でまとめています。
契約書の修正例がそのまま使える「ここを直せばリスク回避できる」という実務例。契約条項を多数掲載。すぐに活用できます。
今すぐ取り組むべき対応がわかる2026年施行を前に、荷主が着手すべき体制整備やチェック項目を明確に整理しています。

物流下請法は、間違いなく物流業界のゲームチェンジャーとなります。法施行後に慌てて対応するのではなく、施行前に備えることこそ最大のリスク回避です。本書は、そのための地図であり武器です。

荷主の経営層にとっては、法令違反を避けるだけでなく、取引先や社会からの信頼を勝ち取るための必須の一冊です。

物流会社にとっては、取引条件を適正化し、健全なビジネス基盤を構築するための必須の一冊です。

ぜひ、御社の経営会議・取締役会で、本書を手にとって議論を始めてください。物流現場の一部の人間だけが知っているリスクを、経営幹部が体系的に理解するその一歩が貴社の未来を変えていくことになると思います。

荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド』2025年12月刊行予定。定価4,400円(税込)。全国書店・Amazon等でお求めいただけます。

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8.免責文言

本記事は公開されている行政資料や報道をもとに作成したものであり、特定の企業を誹謗中傷・批判することを目的とするものではありません。記事内で言及している大手物流企業といった表現は匿名化した仮称であり、物流に係るサプライチェーン全体の課題を論じるためのものです。

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・2025年12月「物流下請法」の本を出版します
・物流下請法とは何か
・【2026年1月から適用】製造・流通業の荷主企業が知っておくべき運送委託に関する下請法改正のポイント
・荷主のための物流下請法対応マニュアル
・物流下請法!適用開始は2026年(令和8年)1月から
・運送業コンプライアンスマニュアル(運送業2024年問題対応)
・物流下請法の誤解と真実
・物流法務担当が見た荷主視点のコンプライアンス
・【製造業は要注意】物流下請法違反は法人や個人にも刑事罰が及びます