【コラム】運送業界を悩ます「合成の誤謬」
合成の誤謬(ごびゅう)という言葉を聞いたことがありますでしょうか。私が高校を卒業してすぐの18歳のときに、大学の経済原論の講義でこの言葉を初めて聞きました。経済学で使用される用語で、一般に生活しているとほとんどこの用語を使うことはありません。そのような用語がどうして、運送業に関係しているのでしょうか?今回は、このテーマについて説明していきます。
1.合成の誤謬とは
そもそも合成の誤謬とは、経済学上の用語で、ミクロの視点では正しい事でも、それが合成化されたマクロの世界では、必ずしも意図しない結果が生ずることをいいます。英語では、fallacy of compositionと表します。
わかりにくいので、具体例を挙げると、個人個人が家計を節約してお金を使わないようにするのは、ミクロの視点では正しいことです。ただし、経済全体が萎縮してしまって、経済成長が行われなくなってしまいます。これではマクロの視点から見ると、望ましくない方向に進んでいくことになります。これが合成の誤謬といい、みんなが正しいことをやっていても、全体では望ましくない方向に向かっていってしまうということです。
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2.運送業の事例
これがどうして運送業を悩ましているのでしょうか? 荷主にとって、運賃を極力安くしようと言うのは経済合理的な行動です。そのため荷主は毎年目標を定めて運送費の合理化を推進しています。これによって適正な運賃水準を割ってまで値下げ要求をするので、多くの運送事業者が適正な運賃をもらうことができていません。その結果、ドライバーの長時間労働が当たり前になっており、20代30代のドライバーのなり手が減り、今後ますます、物流の停滞が引き起こされます。このように荷主1社1社では正しいことをやっていたとしても、それによって運送業界が疲弊して、物流業界全体が成り立たなくなってしまいます。
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3.合成の誤謬がどこから出てきたのか
令和6年4月5日に行われた、衆議院国土交通委員会、物流法・トラック法改正参考人質疑にて、立教大学の首都若菜教授が合成の誤謬について発言されたことにより、運送業界でクローズアップされるようになりました。首藤教授は、運送業界の労働問題に対しての研究者として第一人者であり、国土交通省が主催する専門部会等の委員を多くされています。岩波新書から発売されている、物流機器は終わらないー暮らしを支える労働のゆくえは、ベストセラーであり、私たちのような運送業専門の行政書士には、必須の書籍です。
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4.今後どのような対応すればいいのか
運送業界で合成の誤謬を克服していくためには、政治の力が必要だといわれています。要するに、国による規制的な措置が今後どんどん厳しくなっていきます。今回貨物運送事業法や物流効率化法が改正され、荷主や元請運送事業者に対する対応が強化されたのもその流れであるといえます。トラックGメンによる荷主企業、着荷主企業、元請運送事業者への訪問や指導・勧告が今後ますます厳しくなっていくことでしょう。
また、下請法や物流特殊指定、独占禁止法の管轄である公正取引員会との連携によるこれらの法令違反による勧告もさらに強化されるといえるでしょう。
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5.当事務所がサポートいたします
今後、荷主企業の中でも一定規模以上の企業は特定事業者に指定され、役員クラスの物流統括管理者の選任が義務付けられます。運送事業者に対しての対応について中長期計画の策定やそれに基づく取り組みの実施報告が必要になってきます。初めての試みなので、荷主企業にとってもどのような対応をとったらよいのか判らない企業も多いかと存じます。当事務所では、代表が物流業界で20年以上現場のコンプライアンスに携わってきており、貴社のお困りごとをサポートさせて頂きます。
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6.お知らせ
当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。
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