③物流情報(コンプライアンス)

物流革新に向けた政策パッケージ


最終更新日 2023年11月27日



2023年3月31日に岸田首相から物流業界は、何も対策を講じなければ、物流が停滞しかねないという、いわゆる『2024年問題』に直面している。1年以内に具体的な成果が得られるよう、6月上旬をめどに緊急に取り組むべき、抜本的で総合的な対策をとりまとめてほしいという指示を受けて、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議で6月2日に物流革新に向けた政策パッケージが決定されました。その内容は、荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等)、一般消費者が協力して物流を支える環境整備を行うとしています。①商慣行の見直し、②物流の効率化、③荷主・消費者の行動変容、を盛り込んだ物流革新に向けた政策パッケージとして策定され、2024年の次期通常国会で法制化も含めた規制的措置を具体化するとしています。
その内容について、以下、触れていくことにします。

【目次】

1.商慣行の見直し
2.物流の効率化
3.荷主・消費者の行動変容
4.まとめ
5.お知らせ

 

1.商慣行の見直し

①荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減

物流プロセスでは、売手(発荷主)と買手(着荷主)との間で発注数量や納入条件、納期等が決定され、それを前提として初荷主と物流事業者間で運送契約が締結されます。また、輸送先で着荷主から運送契約になり荷役作業や陳列作業などの附帯作業を指示されたり、長時間の荷待ち時間が強いられたりしているのも散見されています。
これらを解決するためには、発荷主企業、物流事業者、着荷主企業が連携・協働して、改善を図る必要があります。3社が、物流負荷の軽減に向けた計画作成や実施状況の報告を行い、取組みが不十分な事業者に対して、勧告、命令等を行う規制的措置導入を行うとされています。
国土交通省、経済産業省、農林水産省などの関係省庁が、ガイドラインを示し、大手の荷主企業・物流事業者が業界・分野別に自主行動計画を作成し、荷待ち・荷役等の範囲を明確化し、正当な対価の収受を促進するとされています。

②納品期限、物流コスト込み取引価格等の見直し

食品を製造した日から賞味期限までの期間の3分の1の間に納品が求められる、いわゆる3分の1ルールと2分の1ルールが混在し、物流及び在庫管理が複雑化しています。日配品では、受発注後翌日納品が主流となっているためトラックの夜間運転や倉庫での夜間作業が発生しています。3分の1ルール、短いリードタイム見直しについて関係省庁がガイドラインを示し、大手荷主企業に自主行動計画を策定させることを盛り込んでいます。
また、物流サービスや需給状況に応じて価格を変動させるダイナミックプライシングの推進取組みも挙げられています。

③物流産業における多重下請構造の是正

物流事業者間の取引関係は、多重下請関係が存在し、実運送事業者が適正な運賃を収受することが困難となっているケースが多数存在しています。元請運送事業者に実運送事業者を把握できるよう台帳作成を義務化させるとしています。また、悪質な中間事業者を排除するため、適正化実施機関の巡回指導の強化、国の監査体制を充実を図っていきます。

 

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④トラックGメン(仮称)の設置

公正取引委員会が下請取引の適正化のために設置している下請Gメンが大きな効果をあげていることから、トラックGメンを設置して発荷主企業、着荷主企業の監視を強化します。また、自家用自動車(白ナンバートラック)で輸送する事業者に対しても、労働基準法や完全基準告示の遵守徹底を図ることとしています。

⑤担い手の賃金水準向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化等

物流事業者は荷主企業に対する交渉力が弱く、コストに見合った適正な運賃・料金が収受できていないことから、取引環境の適正化の推進、送料無料表示の見直しに取り組むとしています。

⑥トラックの標準的な運賃制度の拡充・徹底

荷待ち・荷役に係る費用、燃料高騰分、下請けに発注する際の手数料等を荷主企業等に適正に転嫁できるよう、2023年度中に、標準運送約款、標準的な運賃を見直すとしています。

 

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2.物流の効率化

DXによる物流効率化、生産性向上、モーダルシフトによる脱炭素化を進めるための物流の標準化、輸送の安全確保、人材の活用・育成を推進していきます。

①即効性のある設備投資の促進

トラックドライバーの労働時間削減のため、荷主企業の到着時間指定、パレット化推進など荷主企業の自発的な設備・システム投資を推進。

②物流GXの推進

①モーダルシフトの強力な促進、②省エネ化・脱炭素化等に資する車両や船舶の導入、③物流施設等の省エネ化・脱炭素化、④カーボンニュートラルポートの推進により物流GX(グリーントランスフォーメーション)を推進。

③物流DXの推進

自動運転、ドローン物流、自動配送ロボットや自動倉庫等、物流DXを活用して物流の生産性の向上、内航海運におけるDXや港湾や空港における入退場の円滑化や手続きの電子化を推進。

④物流標準化の推進

標準パレットの利用拡大、紛失・流出防止のためのパレットの動態管理、個体管理の取組強化、大型コンテナの在り方を検討し貨物駅の改修、トップリフターの導入、低床方貨車の導入。

 

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⑤物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援

物流施設のGX・DX設備導入、非常用電源設備導入等の支援推進、SA(サービスエリア)・PA(パーキングエリア)に大型車駐車マスの拡充、スマートICの整備を推進。

⑥高速道路のトラック速度規制の引上げ

現行の時速80kmを一般車と同じ100kmへの引き上げる方向で調整。

⑦労働生産性向上に向けた利用しやすい高速道路料金の実現

大口・多頻度割引の拡充措置を継続し、利用しやすい高速道路料金を実現。

⑧特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上

特殊車両通行制度に関して、通行時間帯条件の緩和等を行い、道路情報の電子化の推進等による利便性向上。

 

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⑨ダブル連結トラックの導入促進

1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能なダブル連結トラックを導入し、トラック輸送の省人化を促進。

⑩貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し

路外の駐車スペースが少ない場所を中心に、集配に係る駐車に関する規制緩和。

⑪地域物流等における共同輸配送の促進

過疎地域における共同輸配送や物流事業者間の協業等を具体化。

⑫軽トラック事業の適正運営や安全確保

軽トラック運送業における安全対策を強化、労働時間に係る法令遵守の周知・徹底を図り、軽トラックドライバーが故障や点検で車両が使用できない期間中に、個人事業主間で車両の共同使用を認める新たな制度について具体化。

⑬女性や若者等の多様な人材の活用・育成

荷積み、荷降ろし作業軽減のためのテールゲートリフター等の設備の導入やフォークリフトの免許取得を推進、生産性向上を図るため輸送効率の高い大型車両やトレーラー、ダブル連結トラック等の免許取得を推進

 

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3.荷主・消費者の行動変容

2024年問題に対する荷主企業、消費者の認知度はまだ不十分であるため、単なる広報活動にとどまらない新たな取組みが必要とされています。

①荷主の経営者層の意識改革・行動変容

荷主企業の役員クラスに物流管理の責任者を配置することを義務づける制度の導入

② 荷主・物流事業者の物流改善の評価・公表

荷主企業・物流事業者による物流改善の取組みや実施状況についてランク評価等による見える化を実施。

③消費者の意識改革・行動変容を促す取組み

急いで受け取る必要のない荷物については、消費者がよりゆとりを持った配送日時を指定するなど、消費者の意識改革・行動変容を促す取組みを推進

④再配達率「半減」を含む再配達削減

コンビニ・ガソリンスタンドでの受け取りやマンションにおける宅配ボックスの設置、置き配が進む取組み等を推進。再配達削減に向けた消費者の行動変容を促すインセンティブの付与。

⑤物流に係る広報の推進

より広く荷主企業や消費者に対して、物流が果たしている役割の重要性やその危機的状況、持続可能な物流の実現のために各々が取り組むべき事項を伝えるため、官民連携して強力に広報を推進

 

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4.まとめ

さすが、首相の肝いり案件だけあって1つ1つをとっても素晴らしい内容がまとまったと思っています。なぜ、今までこのようなことができていなかったか?ということの議論はなしにして、今から1つ1つ実行することが大切だと思います。すべて完全にやりきるのが望ましいことでしょうが、利害関係者が多岐にわたる案件など実施までの道のりが難しいものもありますので、できることから潰していってほしいと思っています。物流の問題は、物流だけでは解決できず、周りの利害関係者を巻き込んで、多少、譲歩してもらいながら進めていくことが肝要です。

5.お知らせ

当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。