⑤コラム

【コラム】軽貨物ドライバーは時間外労働年間上限960時間の規制対象外?


最終更新日 2023年11月27日



物流2024年問題と呼ばれている、トラックドライバーの時間外労働時間の年間上限が960時間に規制されるまで、1年を切っています。各運送事業者も自社での対応だけでなく、荷主や着荷主と協同して待ち時間や附帯作業の経験に努めるなど、できる限りの対応を行って年間時間外労働時間を960時間以内に抑えようとしています。
少し古いですが、平成27年の総務省労働力調査では、トラックドライバーの約70%が40歳以上(うち55歳以上が約25%)、29歳以下が9.1%と20代の若者がほとんど就業していない業種になっています。そんな中、早朝から深夜まで営業用の黒ナンバーをつけた軽自動車の貨物車(軽バン)が企業の貨物や宅配便を運んでいます。私の自宅の前も夜間に軽バンで宅配便の配達をされているのを見かけるのですが、明らかに年齢層が若く、20代や女性ドライバーも多く見られます。通常のトラックを運転する一般貨物のドライバーと比べ、普通免許でしかもオートマティック車で運転できる軽貨物のドライバーの年齢層がずいぶん違っているような印象を受けます。
表題の2024年4月から開始されるドライバーの時間外労働年間上限960時間についてですが、労働基準法第9条及び第10条で使用者と労働者が定義されおり、第32条(労働時間)、第37条(時間外割増賃金)でも使用者に課せられた義務になっています。
つまり、労働基準法は、雇用される従業員を守るための法律で時間外労働を無制限にさせることがないよう、いわゆるブラック企業を排除する目的としています。軽貨物運送は一般貨物運送と違い、軽バン1台からでも許認可を取得することができます。つまり、雇用される従業員ではなく一人親方やフリーランスと呼ばれる個人事業主になります。
一口に軽貨物ドライバーといっても会社に雇用されて従業員として働くドライバーと個人事業主として荷主や運送事業者から業務委託を受けて仕事をする個人事業主の2種類があります。前者の従業員は当然のことながら労働基準法の適用を受けますので時間外労働年間上限960時間の対象となります。後者の個人事業主は仕事を発注する荷主とは雇用形態がなく、業務委託になるため、そこには労働基準法が適用されず、960時間上限の対象にはなりません。
個人事業主自らの判断で業務の受注量を決めていくので働きすぎて健康を害することになってしまっても自己責任ということになります。自分で受注する量をコントロールしながら、繁忙期には同業の軽貨物ドライバーへの再委託という形で仕事ができるネットワークを持っておかなければなりません。

2022年1月に大手インターネット通販の宅配を担当している大手運送事業者が業務委託契約の一部の個人ドライバーに対して、雇用関係にあるとの判断を受け労働基準監督署から是正勧告を受けました。業務委託の範囲を超える指揮命令があったために、同社が使用者、ドライバーが労働者の関係に該当し、労働基準法の対象になると労働基準監督署から判断されたとみられています。
労働者であれば1日8時間以上働けば、法定労働時間を超えるとして、時間外労働賃金を支払わなければなりませんし、個人事業主が負担したガソリンなどの諸経費も使用者側が負担しなければならなくなります。大手運送事業者は勧告を受けた一部の個人事業主との業務委託について、勧告を受け入れて改善報告書を提出しています。
また、2022年6月には神奈川県横須賀市でアマゾンの荷物を配達する個人事業主10名が労働組合を結成しています。彼らはアマゾンが委託した運送会社と業務委託契約を結んで働いているのですが、使用者、労働者の関係としての賃金・待遇を要求していると思われます。
業務委託とは、委託先の裁量の自由を担保し、対等な関係を保ち委託内容の完成を持って完結するものです。ところが、実際には、宅配ルートの指定や予定外の配達の急な指示、制服着用の要求、報酬の一部天引きなどが行われています。
これらの内容を見て、労働基準監督署も労働基準法が適用される労働形態であると認定しています。
業務委託ではなく、上記のような労働形態で働く場合は、労働基準法の対象となりますので、時間外労働年間上限960時間の制限を受けます。完全な業務委託ではないという判断からです。
また、完全な業務委託契約であっても改善基準告示は適用の対象となります。軽貨物の開業届を提出する際に運輸支局から改善基準告示の説明がありますが、個人事業主の軽貨物ドライバーもしっかりと遵守する必要があります。
労働基準法の適用外であるからといって、稼ぎたいあまりに無理な過重労働を行うことが重大事故につながります。大きな事故が起こるたびに国も規制を強化して再発防止に努めてきました。個人事業主、雇用ドライバーの形態は異なりますが、いずれのドライバーも常に重大事故の危険と隣り合わせということを肝に銘じておかなければなりません。
 

当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。