⑤コラム

【コラム】沖縄でかつて存在した荷主同乗制度


最終更新日 2024年2月13日


表題の荷主同乗制度
過疎地での地域交通を維持するため一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶライドシェアが議論され、2024年4月からタクシー会社の管理のもとで条件付き導入されることになりました。ライドシェアに似たような制度で、かつて沖縄県で行われていた荷主同乗という制度について取材をしてきましたのでレポートいたします。
尚、本記事は、文献および現地での取材に基づいて記載しており、一部裏取りが行われていない部分もあります。事実とは異なる内容もあるかもわかりませんがご了承いただいたうえでお読みください。

1.本制度を取材したきっかけ

取材したきっかけ②
あるお客さんと打ち合わせをしていた時に、沖縄ではトラックにお客さんを乗せることが合法なんですよと言う話をお聞きしました。もちろんこの話は間違いで、トラックで旅客運送することは道路運送法で認められていません。ただ、沖縄では過去の歴史的な背景で長らくトラックを用いて荷主同乗という制度を利用した旅客運送が行われていました。その実情について、一度詳しく調べてみたいということで、現地取材をしました。
 

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2.荷主同乗とは

荷主同乗とは②
現在では、ほとんどの運送会社が、荷主をトラックに同乗させる行為を禁止しています。例外的に競走馬を運送する際に、馬が暴れたときに対応するために調教師を同乗させる、原子力などの危険な物質を運送する際に技術者を同乗させるといった客観的に見て、社会的通念上やむを得ないと認められる場合のみ、貨物自動車に荷主を同乗させる行為を認めています。
 

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3.荷主同乗制度を拡大解釈

拡大解釈②
本来、荷主同乗というのは上記のことをいいますが、この荷主同乗を拡大解釈して、市場での買い物客を乗せる、カバンを持ったお客様を乗せるといった荷物のないお客を乗せるのはタクシー行為だが、荷物を持った客を乗せるのはタクシー行為ではないと言う主張がされてきました。前提として、荷物有償・人無償であって、有償旅客運送に当たらないといった解釈です。これに基づいて荷物のないお客様は乗らないでくださいといった営業を行っていました。いわゆるグレーゾーンだったのですが、昭和60年(1985年)の法改正以降は、有償旅客運送とみなされ、いわゆる白タク行為として道路運送法の違反となります。
 

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4.沖縄の荷主同乗制度について

沖縄の荷主同乗制度について
沖縄県の、那覇市内でも国際通りなどとは違い観光客がほとんど訪れない開南地区で荷主同乗制度を利用した軽貨物バンで旅客を乗せています。この地区には、農連市場(現在はのうれんプラザに名称変更している)という卸売と小売を行っている市場が存在しています。ゆいレールが通ってる地域でもありませんし、バスの便も悪く、地域交通の便がほとんどないため、農連市場の買い物客は、自宅から市場までの交通の便を確保する必要があります。マイカーを運転しない高齢者は選択肢がなくタクシーを利用せざるを負えない状況です。週に数回の買い物に使うタクシー代が馬鹿にならず、これを補填するタクシーよりも安い価格で旅客を運ぶ軽貨物バンのドライバーが同法改正以前は多く存在していました。
軽貨物
沖縄軽車両運送事業協同組合、沖縄軽貨物運送事業協同組合、全琉軽貨物運送事業協同組合といった、軽貨物事業の組合に所属する個人事業主が軽貨物バンを使用して旅客運送を行っていました。わかりやすく例えると、赤帽のような軽貨物運送の組合に所属する個人事業主が自分が所有する、スズキのキャリーやダイハツのハイゼットカードを使用してお客さんを農連市場からご自宅までタクシー代わりに有償運送をしていたということです。
 

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5.軽貨物バンの最大積載量

最大積載量②
軽貨物バンは乗車定員4名でその後部に荷物を積載することができます。後部座席を畳んだ2人乗車の状態で最大350kgまで積載することができます。後部座席を設けた場合は、4人まで乗車することができますが、その分荷物の積載量が減ります。55kgx2人分の積載量を減じることになるので、最大積載量は240kgになってしまいます。沖縄での荷主同乗では、ほとんどのお客さんが買い物袋程度の荷物しか持っていないため最大積載量240kgをオーバーして過積載になることはほとんどなかったと聞いています。
 

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6.農連市場(現 のうれんプラザ)

農連プラザ
農連市場(現 のうれんプラザ)は、沖縄県那覇市樋川2丁目3-1にあり、場所が観光エリアから離れていることから観光客がほとんど立ち寄らないエリアにあります。
元々、戦後の闇市から発祥した市場で沖縄県民の台所として現在でも親しまれています。1960年代頃の写真を見ると、沖縄本島中から農家がやってきて、自分で育てた野菜などを販売していました。品物に値札がない、売り手と買い手が交渉して値段を決める昔ながらの相対売りで、だれでも買い物をすることができ卸売りと小売りが混在する市場です。2017年に現在の建物に建て替えられ、2階の一部と3階部分が駐車場になったためほとんどの買い物客が、車で買い物を行うことができるようになったため、以前のように軽貨物バンの有償旅客運送のニーズがほとんどなくなってしまったというのが現状のようです。
 

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7.昭和60年(1985年)の道路運送法改正

道路運送法改正②
昭和60年(1085年)に道路運送法が改正され、有償旅客運送行為は反復継続性だけでなく、1回限りの行為でも違法とされることになりました。しかしながら、沖縄では、これまで軽貨物運送事業者が、荷主同乗方式による営業が定着してきたことを背景にこれらの事業者に対して、適正な指導期間を設けるとともに、実効性のある生業対策を推進すべき旨の附帯決議がなされました。
 
附帯決議②
 
また、同年の12月19日付で沖縄総合事務局が「軽貨物運送事業生業対策要綱」を取りまとめ、軽貨物ドライバーが人を乗せなくても、事業を営むことができるように本来の軽貨物運送事業への専業化、タクシー運転手への転職、普通トラック運転手への転職など7項目への転職、事業形態の変更を促していました。
現在では、宅配便の需要が旺盛で軽貨物ドライバー自体が不足していますが、当時の沖縄県では、軽貨物運送専業で生業を行うだけの物量がなく、タクシー運転手への転職を行おうとしても当時は55才定年であったことも併せて、国や自治体がすすめる事業転換が円滑には行われませんでした。
 

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8.取り締まりと国家賠償請求訴訟

国家賠償請求訴訟
沖縄総合事務局の事業生業対策が1年間であったことから、翌年の昭和61年(1986年)には取締りが強化され沖縄総合事務局陸運事務所長による営業停止処分が続出しました。これを不服とした軽貨物運送の事業者らの一部は昭和62年(1987年)11月に荷主同乗は荷物有償・人無償であって有償旅客運送には当たらない。実効性ある生業対策抜きの取り締まりは違法と主張して提訴しましたが、軽貨物運送事業者側が全面敗訴に終わっています。 
敗訴後も行政と軽貨物運送事業者のいたちごっこが続き、摘発が繰り返されているが相変わらず営業が続けられるという状態が続いていました。
 

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9.沖縄県議会でも本対策を注視

沖縄県議会
法改正から5年たった平成2年(1990年)でも軽貨物バンによる有償旅客運送が行われているとして沖縄県議会で問題視されています。
平成2年(1990年)7月5日の沖縄県議会において、沖縄社会大衆党の島袋宗康議員の質問に答える形で、福岡高裁で軽貨物バンによる有償旅客運送が違法との判決が出ていること、運輸当局の行政処分のみならず、昭和62年4月からは沖縄県警独自でも運送秩序あるいは法秩序の確立から、運輸当局と連携しながら指導取り締まりを実施していると、当時の、浅川章 沖縄県警察本部長、久手堅憲信 沖縄県企画開発部長の答弁の記録が残っています。
 

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10.住民のニーズは高かった

住民のニーズ
もともと農連市場は、卸売だけではなく小売りも行っており、住民の生活の中で重要な位置づけを占めています。最寄りのバス停(開南バス停)までは5分ほど歩かなければならず、市場前から重い荷物と一緒に自宅まで運んでくれる軽貨物バンには大変便利な交通機関となっていました。バスの便もエリアによっては利便性が悪く、2本乗り継がなければ帰ることができない地域にお住まいの方もこの軽貨物バンを利用されていました。とりわけ、自分で運転することができない高齢者の足として、長年、軽貨物バンは重宝されていました。また、農家である売主側でも自家用車を所有していない場合もあり、販売用の農作物を自宅から農連市場まで自分と一緒に運んでくれる軽貨物バンを重宝していました。しかも、安い。取材した内容で裏取りをしていないが、タクシーの半額程度で運んでくれるということでした。
 

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11.軽貨物バンでの有償旅客運送は現在でも存在する?

今でも存在する?
時代とともに農連市場には、マイカーで買い物に来るようになり、軽貨物バンでの有償旅客運送のニーズがほとんどなくなっています。また、当時の軽貨物ドライバーも高齢化により廃業を余儀なくされ、2000年頃には、軽貨物バンでの有償旅客運送はすべてなくなったと報じされていました。
筆者は、2024年2月に農連市場に立ち寄りました。日曜日であったこともあり、市場は閑散としており、お目当ての有償旅客運送をしている軽貨物バンも見当たりませんでした。
ただ、農連市場をよく利用されている方に来てみると、現在でも3台(3事業主)の軽貨物バンが営業しているとのことでした。農連市場近隣の路上に停車しているか、携帯電話で呼んで迎えにきてもらうか、いずれかの方法で乗車することが可能なようです。いずれのドライバーも高齢ドライバーでここ10年以内には完全に姿を消すのではないかとのことでした。現在、那覇市内のタクシー料金は、初乗り1.179km当たり600円です。これが軽貨物バンの場合は、400円で走ってもらえるとの事でした。タクシーだと2000円程度かかる南風原地区まででも800円で運んでもらえるので、高齢者の足として細々と営業をされているようです。
※あくまで取材に応じていただいた方の話であり裏どりは一切行っていませんのでその点、ご認識ください。
 
運輸当局や警察も定期的な取締りを行っていることと思います。ただ、営業行為をされておられる方も昭和60年(1985年)以前から営業をされておられる方ですので相当な高齢ドライバーだと思われます。おそらく10年以内には軽貨物バンの有償旅客輸送は完全に姿を消して歴史の一部としてなってしまうでしょう。
 

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12.お知らせ

お知らせ③
当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。
 

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。