③物流情報(コンプライアンス)

物流2024年問題の罰則を考察


最終更新日 2023年11月27日



働き方改革関連法改正の総仕上げとしてトラックドライバーや他の特例業種の時間外労働時間規制の猶予期間が2023年3月31日で終了します。労働基準法第119条1項にて6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されると明記されていることから、時間外労働時間の年間上限規制に違反して、国土交通省の監査、労働基準監督署の臨検が入った場合に、運送事業者としてどのような対応を取るべきなのか、またどのような罰則が科されるのか、私なりに考察をしてみました。この考察については、賛否等、さまざまな意見があるかと思いますので、あくまでの一つの考察として受け取って頂ければと考えます。

【目次】

1.物流2024年問題とは
2.ものが運べない NX総研の試算
3.罰則の規定と根拠法令
4.運送業を営む上での欠格事由
5.働き方改革推進支援センター
6.センターに相談・罰則について
7.改善基準告示2024
8.大手荷主企業と取引している運送事業者は注意
9.まとめ

 

1.物流2024年問題とは

働き方改革関連法案の改正により時間外労働の上限は原則年間360時間、例外で年間720時間となっており大企業では2019年4月から、中小企業でも1年遅れで2020年4月から適用されています。改正前は行政指導のみで罰則がなかったのですが、2019年からは、労働基準法第119条1項にて、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられています。
2019年段階での時間外労働上限年間720時間を守ることができない業種として、①自動車運転の業務(トラック、バス、タクシー)、②建設業、③医師、④沖縄県及び鹿児島県の砂糖製造業に関しては罰則付きの規制を改正法施行5年後の2024年4月からに、年間上限規制を適用するとしています。また、自動車運転の業務は、時間外労働の年間上限規制が一般業種の年間720時間ではなく、特例業種として年間960時間が上限となっています。
トラック協会が2021年に行ったアンケートでは、時間外労働年間960時間超となるドライバーがいると回答した運送事業者は全体で27.1%、長距離運送では48.1%が960時間を超過していると回答しています。運送事業者、特に長距離輸送を行っている中小の運送事業者は運行計画の見直しやトレーラーの活用による中継輸送など長時間労働を削減するように努力していますが、現状、画期的な削減ができておらず、日々頭を抱えておられます。
2024年4月までに自動車運転の業務の時間外労働を年間960時間以内に抑えなければ罰則が適用されますので、運送事業者としてはこれに対応する運行計画を策定しなければなりません。この時間外労働の年間上限規制によって、ドライバー1人当たりの仕事量が制限されることになります。時間外労働が減ることによってトラックドライバーの収入が減ってしまうことから、長時間労働ありきの賃金体系になっている運送業界では、相当数のドライバーが離職するともいわれています。
このようなトラックドライバーの不足によって荷主の荷物が運ぶことができない、といった事象があちこちで出てくる可能性があります。
 
これが物流2024年問題といわれている内容です。
 

・目次に戻る


2.ものが運べない NX総研の試算

NX総研(旧日通総研)の試算によると、2024年4月から適用される時間外労働年間上限規制960時間及び改善基準告示2024の年間拘束時間3300時間へに見直しによる輸送能力の不足は、2019年比で輸送トン数が4.0億トン不足し、全体で14.2%もの輸送能力が不足するとなっています。業界別の輸送能力不足も算出されており、農業・水産品の輸送については32.5%の輸送能力不足となっております。何も対策を行わなければ、新鮮は野菜や水産品がスーパーや小売店に並ばないという事態になってしまいます。
トラック協会の資料によると、運送事業者はドライバーの離職防止として、待遇改善、給与体系の見直しによる全作業平均並みの賃金の実現、週休2日制の導入、有給休暇の取得推進やキャリアパスの明示などを行っており、また女性た高齢者に働きやすい職場づくりを行って新たにドライバーへなろうとする人への門戸を広げています。
荷主側との調整による荷待ち時間や荷役手作業の削減、事業継続に必要な運賃料金お収受を試みていますが、利害関係の調整が難しく、これをやれば物流2024年問題が解決するという決定的なものがなく、小さくてもできることを1つずつやっていくしかないのが現状のようです。
 

・目次に戻る

3.罰則の規定と根拠法令

時間外労働年間上限規制の罰則は、労働基準法第119条1項にて6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金と規定されています。
改正前は、罰則規定が設けられておらず行政指導のみでしたが、労働基準法第119条1項にて6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるようになりました。同法32条(労働時間)で1週間40時間以上、1日8時間以上労働させてはならない。と規定されています。また、第36条(時間外及び休日の労働)において労使間で36協定を締結することによって、時間外労働をさせることができるようになっていますので、罰則規定は第32条の労働時間に対して適用されることとなります。(厚生労働省確認済)
条文は下記のようになっています。
 
<労働基準法第119条第1項(抜粋)>
次の各号のいずれかに該当する者は、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第6項、第37条、第39条(第7項を除く。)、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者
 

・目次に戻る


4.運送業を営む上での欠格事由

貨物運送事業法第5条1項では、運送事業者の役員全員が1年以上の懲役又は禁錮の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者であるときは、欠格事由として、貨物運送事業の許可を得ることができなくなっています。
また、第33条では、許可の取消し条件として第5条1項を準用して役員全員が1年以上の懲役又は禁固刑に処せられた場合には運送業の許可が取り消されるとされています。運送業ではありませんが、同じような例で2022年に役員が欠格事由に該当したため、大手企業が建設業を自主廃業し、再度免許を取り直したことがありました。
時間外労働規制の罰則は、最大でも6か月の懲役ですのでこの欠格事由には該当しませんが、今後の罰則強化がされることも考えて、運送事業は欠格事由により取り消される可能性があることも考えていかなければなりません。
 

・目次に戻る


5.働き方改革推進支援センター

厚生労働省が、働き方改革に向けて、特に中小企業・小規模事業者の方々が抱える様々な課題に対応するため、働き方改革推進支援センターを47都道府県に開設しています。
このセンターでは、就業規則の作成方法、賃金規定の見直し、労働関係助成金の活用などの基本的な相談から、①長時間労働の是正、②同一労働同一賃金等非正規雇用労働者の待遇改善、③生産性向上による賃金の引上げ、④人手不足の解消に向けた雇用管理改善などの支援を、電話、メール、センターへの来所により行っています。
また、商工会議所、商工会、商工組合中央金庫(商工中金)等と連携してセミナーや出張相談会も行っています。
 

・目次に戻る


6.センターに相談・罰則について

2024年4月以降に、トラックドライバーの年間時間外労働時間960時間を超過して労働させた場合に使用者はどのような罰則が適用されるのか、働き方改革推進支援センターに相談してみました。前提としては、労働基準法第119条1項にて6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金となっていますが、運送事業者の代表(社長)が6か月の懲役刑になることがあるのか?そのような事態になった場合には、小規模な運送事業者は事業自体が立ち行かなくなり、廃業しなければならなくなる可能性も出てきます。
相談窓口の方も、あくまでも同様の過去事例に当てはめたうえでの私見としながらも、是正勧告に従って、すぐに是正した場合で悪質性がない場合は、よほどのことがない限り、懲役刑は適用されず罰金刑になるということでした。ただし、法律上は懲役刑も適用されることになっているため、すぐに是正勧告に従って是正し、悪質性がない場合でも懲役刑の可能性はゼロではないことは肝に銘じておく必要があります。
仮に罰金刑が適用されたとして1社あたり30万円の罰金なのかドライバー1人あたり30万円の罰金なのかわからないところです。仮にドライバー10人に960時間超過があった場合でドライバー1人あたりに罰金が課される場合は300万円の罰金となってしまいます。小規模な運送事業者の場合、300万円もの罰金が課された場合など年間の利益が吹っ飛んでしまいます。
この点についても働き方改革推進支援センターに相談してみましたが、法令上は、ドライバー1人あたりに罰金を科すことができるとなっています。実際に違反事例があって会社に1件の罰金を科すのか、超過したドライバーの人数分に罰金を科すかについては、個別事案をみてからの判断となるようです。
上記は、あくまでも勧告後すぐに是正した場合で悪質性がない場合に限られ、悪質性があり、故意に法令を無視して長時間労働をさせていた場合には懲役刑が適用される可能性もあるということは意識しておいてください。
 

・目次に戻る


7.改善基準告示2024

トラックドライバーの場合は、トラック運転者は、運転や積込み・積み降ろし、検品等の労働時間だけではなく、荷待ち時間等の待機時間(手待ち時間ともいわれます)は、休憩時間とは違い、労働から解放された時間ではないため労働時間+待機時間で拘束時間を規定する内容になっています。
トラックドライバーの場合は、時間外労働時間年間960時間の上限が2024年4月から適用されますが、時間管理は拘束時間で管理することが望ましいとして、厚生労働省が改善基準告示を制定しています。
この改善基準告示が、2024年4月から改定され、年間の拘束時間が3516時間から原則3300時間、最大3400時間と働き方改革の時間外労働規制に合わせたかたちとなりました。改善基準告示では、現実とかけ離れた数値を設置することができなかったため、関係者で整合の上、実現できる年間拘束時間を原則3300時間、最大3400時間と定めました。この年間拘束時間の上限は3年毎に実情を踏まえて改正を行うとしています。次回は、2027年に改定が予定されています。2024年、2025年の遵守状況を見ながら、トラックドライバーだけが特別なのではなく、一般の業種と同じような労働形態に近づけていくことになるはずです。

 

・目次に戻る


8.大手荷主企業と取引している運送事業者は注意

既に書きました通り、トラックドライバーは労働時間ではなく、いつでも仕事をすることができるように準備しておく待機時間を含めた拘束時間で管理をしていかなければならないことはお分かりいただけたことかと思います。労働時間が労働基準法で定められており罰則規定があります。これに対して拘束時間は厚生省の告示である改善基準告示2024で規定されており、罰則規定がありません。
罰則規定がないから守らなくてもいいのかというと、そういう訳ではありません。特に大手荷主企業の商品を運ぶ運送事業者にとっては、元請であっても、元請からの再委託、再々委託の運送事業者であっても絶対に改善基準告示を遵守しなければなりません。運送事業者が改善基準告示に違反して勧告を受けた場合には、その運送事業者ではなく、大手荷主企業の名前がテレビや新聞紙上で公表されてしまいます。大手荷主企業にとっては、社会的信用の失墜となり、場合によっては、売上の大幅減や社長の謝罪会見を行わなければならないようになってしまいます。そのような原因を引き起こしたのが○○運送であったという事実が判明すると、契約が打ち切られる可能性が高くなります。
大手荷主企業はこのようなリスクを想定し、運送契約の解除条項にこのような事象が発生した場合は即時解除を行うことを明記している場合もあります。今一度、運送契約書を確認しておいてください。
いずれにしても、罰則の有無にかかわらず、大手荷主企業と直接、間接にかかわらず取引する限りは改善基準告示2024の内容を理解して、徹底遵守をおこなわなければなりません。
 

・目次に戻る


9.まとめ

物流2024年問題の時間外労働時間規制年間960時間を守れなかった場合の罰則は、労働基準法第119条1項にて規定されている6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金ですが、実際のところは労働基準監督署の裁量によって決められるようになるようです。情状酌量の余地が認められるのは、あくまでも是正勧告に従って、すぐに是正した場合で悪質性がない場合に限られますので、違法性を認識しながら悪意をもってトラックドライバーに長時間労働をさせていた場合などは、一番重い罰則が適用されることも覚悟しておいたほうがいいかと思います。
まだ、2024年4月まで時間はあります。限られた時間ですがこの期間に体制を整えてトラックドライバーの労働時間管理をしていくようにしていかなければなりません。
 

・目次に戻る
ページのトップに戻る

関連記事

・運送業開業マニュアル
・利用運送開業マニュアル
・運送業コンプライアンスマニュアル(運送業2024年問題対応)
・物流2024年問題は何の法律(法令)のどこに書いてあるか
・改善基準告示2024

 

 

 

 

 

 
ページのトップに戻る

 

 

 

 

 

 

 
 


Generic selectors
完全一致検索
タイトルから検索
記事本文から検索
 お問い合わせ
contents
カテゴリー

楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。