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改善基準告示2024


最終更新日 2023年11月27日



2024年4月から施行される新しい改善基準告示(トラック版)(以下、新改善基準告示)が2022年9月8日の第10回作業部会でまとまり、2022年(令和4年)12月23日に加藤勝信 厚生労働大臣名で厚生労働省告示第367号として公布されました。2019年12月19日の第1回会合から2年9カ月とかなり長い期間をかけて専門家による協議の結果、ようやくまとまったという感じです。並行してバス部門、タクシー・ハイヤー部門の新改善基準告示策定の作業部会が行われていましたが、いずれも第6回の作業部会で2022年3月には確定していました。いかにトラックの労働条件が複雑で一般他業種とかけ離れており、整合が困難であったかがわかると思います。

【目次】

1.改善基準告示とは何か
2.新改善基準告示の拘束時間(1日、1か月、1年)
3.新改善基準告示の休息期間
4.新改善基準告示の運転時間・連続運転時間
5.新改善基準告示で新しく加えられた項目
6.国が定めた過労死基準
7.まとめ


1.改善基準告示とは何か

改善基準告示とは、交通事故防止とドライバーの労働条件改善のことをいい、正式名称は「労働省告示第7号 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」と呼ばれています。告示が全6条で構成されており、第2条がタクシー、第3条がハイヤー、第4条がトラック、第5条がバス運転手に関する内容が規定されています。昭和30年代(1955年~)になると貨物自動車運送事業が発展し、トラックによる重大事故の増加が社会問題になり、自動車運転者の労働時間などの労働条件を改善し交通事故を防ぐために昭和42年(1967年)に「2・9通達」という規則が定められたのが始まりです。その後、昭和50年代(1975年~)に高速道路や一般道路の整備に伴って自動車輸送のシェアは拡大し、トラックによる重大事故も増加したため昭和54年(1979年)に「27通達」として改正されました、平成元年(1989年)に労働時間短縮という時間の流れにともない「改善基準告示」として通達から告示に格上げされ、その後6回の改正を経て現行の改善基準告示となっていました。今回の新改善基準告示は労働基準法改定に伴う自動車運転者の時間外労働時間規制の猶予が廃止されることに伴い、それに沿って大幅に改定が行われています。
 
この改善基準告示は、製造業や卸売業、建設業にはない特別なルールであり、トラック運送事業者が遵守しなくてはならない法令になっています。
 

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2.新改善基準告示の拘束時間(1日、1か月、1年)

①1日の拘束時間
原則として1日の拘束時間は13時間以内、上限は15時間以内。14時間を超える日は週2回までとなるように努める。例外として1週間お運行がすべて長距離運送かつ、一の運行における休息期間(勤務が終わって次の勤務までの時間)が住所地以外の場合は、当該1週間について2回まで16時間以内可能。この場合も14時間を超える回数は週2回までとなるように努める。
 
②1か月の拘束時間
原則として1か月の拘束時間は284時間以内。例外として労使協定がある場合、1年のうち6か月までは1年間についての拘束時間が3400時間を超えない範囲内で月310時間まで延長可能。ただし、1か月の拘束時間が284時間を超える月が3か月を超えて連続しないものとし、1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるように努めること。
 
③1年の拘束時間
原則として1年の拘束時間は3300時間以内。例外として労使協定がある場合は3400時間まで延長可能。
 

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3.新改善基準告示の休息期間

①休息とは
休息期間とは、ドライバーが会社の管理下に置かれることなく自由に時間が使える勤務と勤務との間の時間のことで、言い換えると「ドライバーが仕事から完全に解放される自由時間」のことをいいます。休憩や仮眠も会社の指揮命令から離れて自由にできる時間ですが、仕事の途中に与えられるものであり、会社の命令は届く状態にあります。休息期間は仕事が終わってから与えられるものであり、完全に自由に使える時間であるという違いがあります。
 
②休息期間
休息期間は、勤務終了後に11時間与えることを基本とし、最低でも継続9時間を下回らないものとする。例外として、ドライバーの1週間における運行がすべて長距離貨物運送であり、かつ一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合は、当該1週間について2回に限り、継続8時間以上とすることができる。この場合、一の勤務終了後に継続12時間以上の休息期間を与えるものとする。
 
③分割休息
業務上、勤務終了後に継続9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合は、一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に、拘束時間途中及び拘束時間の経過直後に分割して休息を与えることができる。この場合、1回継続3時間以上、合計10時間以上の分割した休息期間でなければならず、一定期間とは1か月程度を限度とする。また、分割は2分割に限らず3分割も認められるが、3分割された休息期間は1日合計12時間以上でなければならない。そして3分割される日が連続しないよう努める。
 

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4.新改善基準告示の運転時間・連続運転時間

①運転時間 改正前から変更なし
連続運転時間は2日平均で1日あたり9時間以内、2週平均で1週間あたり44時間を超えてはいけません。
 
②連続運転時間
連続運転時間は4時間を超えないものとする。運転の中断は原則として休憩でなければならない。運転の中断はおおむね10分以上とし、10分未満の運転の中断が3回以上連続しないこととされています。改正前の運転の中断は作業や休憩など、ドライバーが運転しない時間であれば何でも良かったのに対し、新改善基準告示では「休憩」でなければ運転の中断とみなされなくなっています。また、運転の中断は10分未満でも大丈夫ですが、10分未満となる場合は、それが3回連続しないようにしなければいけません。
 

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5.新改善基準告示で新しく加えられた項目

新改善基準告示では、「予期しえない事象」が新しく追加されました。事故、故障、災害など通常予期しえない事象に遭った場合で、タコグラフなど客観的な記録が確認できる場合は、①1日の拘束時間、②運転時間(2日平均)、③連続運転時間の規制について、その対応に要した時間を除くことができます。
 
予期しえない事象の具体例
①運転中に乗務している車両が予期せず故障した場合
②運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航した場合
③運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖された場合や道路が渋滞した場合
④警報発表を伴う異常気象に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となった場合
 

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6.国が定めた過労死基準

国が定めた過労死基準は、月100時間以上の時間外労働になっています。現在のトラックドライバーの改善基準告示では、拘束時間ベースで時間外125時間以内(1か月の拘束時間293時間)となっていましたが、新改善基準告示では、拘束時間ベースで時間外116時間以内(1か月の拘束時間284時間)となり9時間削減されています。削減されたといっても月100時間以内という国の過労死基準を守れなかったのは残念ですが、「労働時間を削減しすぎると荷主の発注をすべてこなすことができない」、結果として荷物が運べなくなることが絶対に避けるべきだ。という荷主側、運送事業の経営者側の意見を通した結果になっています。
 
製造業などの他の職種であれば、出荷納期を調整して明日出荷しよう。ということができますが、運送業の場合は1日13時間までしか働けないから、途中で運送をやめて荷物を置いて帰ってくる、といったことができないため、どんなに時間がかかっても仕事を完了しなければならないという使命があります。
 
労働者側の代表である労働組合も、時間外労働を削減したいが極端に時間外労働時間を削減することによってトラックドライバーの収入減になることを避けたいし、労働者側が権利を主張しすぎても会社として代替ドライバーを確保できなければ、結果として会社の業績悪化につながります。このような双方の事情もあり拘束ベースとはいえ、時間外労働時間100時間超を容認せざる得ないという内情がありました。
 

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7.まとめ

厚生労働省としても、今回の新改善基準告示について一定の評価をしています。守れない基準をつくっても仕方がない。ギリギリでも実現可能なものを制度化する。そうしないと改革が進んでいかない。そして3年ごとに基準を見直して一般の他業種と同じレベルに近づけていきたいとしています。新改善基準告示の時間外労働116時間以内(拘束時間ベース)を守ることができれば、トラックドライバーの過労死も随分減ってくるといわれています。令和3年度(2021年度)の脳・心疾患の労災認定件数は172件中、運送業が59件で、製造業の23件、卸売業の22件、建設業の17件に比べてダントツに多いです。私たちは今後、トラックドライバーの労働条件改善、適正な運賃収受に向けてこの問題と真剣に向き合っていかなければならないです。
 

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。