物流2024年問題は何の法律(法令)のどこに書いてあるか
物流2024年問題についてメディアで頻繁に取り上げられ、物流の専門誌でも特集されています。国の施策として決定した内容についてはひととおり網羅して記載されているのですが、その内容が「何の法令のどこに書いているのか」が記載されている情報がほとんどなく、厚生労働省のパンフレットを見せて説明されている方も多いかと思います。根拠となる法令名を具体的に出して説明することができれば、より説得性も増すと思いますので、2024年問題を乗り越えるためにも、何の法令のどこに書いているのかを説明していきます。今回の法令の適用条文については、厚生労働省に確認の上で作成しています。
【目次】
1.働き方改革とは
2.働き方改革関連法という法律はない
3.法律と法令の違い
4.物流2024年問題とは
5.時間外労働上限年間720時間の法律(法令)根拠
6.時間外労働上限年間960時間特例の法律(法令)根拠
7.2024年までの猶予期間の法律(法令)根拠
8.罰則の法律(法令)根拠
9.トラック運転者の改善基準告示2024
10.まとめ
1.働き方改革とは
1億人が総活躍できる社会の実現に向けて、2016年9月に働き方改革実現会議が設置され、2017年3月には①長時間労働の是正、②多様で柔軟な働き方の実現のための環境整備、③雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保など9分野における具体的な方向性を示した働き方改革実行計画がまとめられました。そして、2018年6月には既存の8つの法律を改正した働き方改革関連法案が成立し、2019年4月から順次施行されています。
主な内容としては、①時間外労働の上限が年間720時間までに規制、②月60時間を超える時間外労働割増率の引上げ(25%⇒50%)、③年5日の有給休暇取得義務付け、④同一労働・同一賃金などが罰則付きで施行されています。特に①の時間外労働の上限は原則年間360時間、例外で年間720時間となっています。
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2.働き方改革関連法という法律はない
働き方改革関連法という言葉をよく聞きますが、そのような名前の法律はなく、今回の多様な働き方を選択できる社会を実現するために改正された法令の総称を働き方改革関連法と呼んでいます。具体的には、(1)労働時間法制の見直しによって労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、(2)雇用形態に関わらない公正な待遇によってパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法が改正されそれに付随して雇用対策法、じん肺法も改正されています。つまり働き方改革関連法というのはこれらの8つの法律およびそれに関連する施行令や通達等をあわせた法令を総称しての呼び方になります。
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3.法律と法令の違い
法律とは、社会の秩序を守る為に、掲げられる規範のことで、すべての国民及び日本に居住する外国人が守らなければならないもので、誰かが勝手に決めることはできず、国会での承認が必要になります。法令とは法律にプラスして内閣が制定する政令、各省庁が制定する省令、内閣府令、規則や地方公共団体が制定する自治立法である条例や規則を含めた広義な意味を持っています。政令や省令も私たちは遵守しなければならない条項ですので、それらをまとめて法律+命令という意味で法令という言葉が使われています。
倉庫に関する法律では、倉庫業法が法律、倉庫業法施行令が政令、倉庫業法施行規則が省令にあたります。政令や省令は、内閣や各省庁が独自で制定することができる命令にあたりますので、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができないとされています。(政令:内閣法11条、省令;国家行政組織法第12条第3項)
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4.物流2024年問題とは
時間外労働の上限は原則年間360時間、例外で年間720時間となっており大企業では2019年4月から、中小企業でも1年遅れで2020年4月から適用されており違反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。2019年段階での時間外労働上限年間720時間を守ることができない業種として、①自動車運転の業務(トラック、バス、タクシー)、②建設業、③医師、④沖縄県及び鹿児島県の砂糖製造業に関しては罰則付きの規制を改正法施行5年後の2024年4月からに、上限規制を適用するとしています。また、自動車運転の業務は、時間外労働の上限規制が一般業種の年間720時間ではなく、特例業種として年間960時間が上限となっています。
2024年4月までに自動車運転の業務の時間外労働を年間960時間以内に抑えなければ罰則が適用されますので、事業者としてはこれに対応する運行計画を策定しなければなりません。この時間外労働の上限規制によって、ドライバー1人当たりの仕事量が制限されることになります。長時間の時間外労働ありきの賃金体系になっているトラックドライバー、特に長距離ドライバーは賃金低下による離職が加速し、労働力不足により、ドライバーが確保できないから明日の荷物を運ぶことができない。といった事象が現実に起こってくる可能性があります。NX総研(旧日通総研)のデータによれば、2024年から適用される改善基準告示2024と時間外労働規制年間960時間が適用された場合には、14.2%の輸送能力が不足すると試算しています。
これが物流2024年問題と呼ばれている内容です。
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5.時間外労働上限年間720時間の法律(法令)根拠
時間外労働時間は、月45時間以内、年間360時間以内が原則になっています。時間外労働をさせるためには、労働者の代表(通常は労働組合)と使用者(経営者)が労働基準法第36条に基づく労使協定(以下、36協定)を締結し、所轄の労働基準監督署に届けることにより時間外労働をさせることができます。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合に限り、様式第9号の2と呼ばれている36協定の特別条項を所轄の労働基準監督署に届け出ることによって始めて年間720時間以内の時間外労働をさせることができるようになります。
今回の改正前から年間720時間以内の時間外労働を行わせるためには36協定の特別条項届出が必要でしたが、従来は行政指導のみで時間外労働時間の上限規制は法律上ではありませんでした。今回の改正により法律で残業時間の上限が定められ、これを超える残業ができなくなり、使用者に罰則が適用されるようになりました。この時間外労働上限年間720時間の根拠は、労働基準法第36条第5項に定められており、条文は下記のようになっています。
<労働基準法第36条第5項(抜粋)>
当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第1項の協定に、併せて第2項第2号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が1箇月について45時間を超えることができる月数(1年について6箇月以内に限る。)を定めなければならない。
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6.時間外労働上限年間960時間特例の法律(法令)根拠
運送事業者の社員であっても、自動車運転の業務に従事しない事務員や倉庫内での作業者は時間外労働上限年間720時間が適用されています。時間外労働上限年間960時間特例(2024年4月(令和6年4月)まで猶予)が適用されるのは、物流業界ではトラックドライバーのみになります。この時間外労働上限年間960時間の根拠は、労働基準法第140条第1項に定められており、自動車運転の業務に従事する者は、36条の時間外労働上限年間720時間を読み替えて960時間を適用することとされています。また、労働基準法第36条6項2号(1か月の時間外労働が100時間未満であること)及び3号(5か月間の平均時間外労働時間が80時間未満であること)は適用しないとされています。第140条は今回の働き方改革関連法の改正によって新しくつくられた条文です。
条文は下記のようになっています。
<労働基準法第140条第1項(抜粋)>
貨物自動車運送事業の業務として厚生労働省令で定める業務に関する第36条の規定の適用については、当分の間、同条第5項中「時間(第2項第4号に関して協定した時間を含め100時間未満の範囲内に限る。)並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第1項の協定に、併せて第2項第2号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が1箇月について45時間(第32条の4第1項第2号の対象期間として3箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について42時間)を超えることができる月数(1年について6箇月以内に限る。)を定めなければならない」とあるのは、「時間並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(第2項第4号に関して協定した時間を含め960時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる」とし、同条第6項(第2号及び第3号に係る部分に限る。)の規定は適用しない。
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7.2024年までの猶予期間の法律(法令)根拠
時間外労働上限年間の規制及びそれに違反した場合の罰則規定が2019年4月(中小企業は2020年4月)から適用されていますが、自動車運転業務従事者は、2024年4月(令和6年4月)まで猶予されています。この根拠は、労働基準法第140条第2項に定められており、条文は下記のようになっています。
<労働基準法第140条第2項(抜粋)>
前項の規定にかかわらず、同項に規定する業務については、令和6年3月31日までの間、同条第3項から第5項まで及び第6項(第2号及び第3号に係る部分に限る。)の規定は適用しない。
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8.罰則の法律(法令)根拠
改正前は、罰則規定が設けられておらず行政指導のみでしたが、労働基準法第119条1項にて6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるようになりました。同法32条(労働時間)で1週間40時間以上、1日8時間以上労働させてはならない。と規定されています。また、第36条(時間外及び休日の労働)において労使間で36協定を締結することによって、時間外労働をさせることができるようになっていますので、罰則規定は第32条の労働時間に対して適用されることとなります。(厚生労働省確認済)
条文は下記のようになっています。
<労働基準法第119条第1項(抜粋)>
次の各号のいずれかに該当する者は、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第6項、第37条、第39条(第7項を除く。)、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者
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9.トラック運転者の改善基準告示2024
平成元年に制定されたトラック運転者の改善基準告示が大幅に改定され、新しい改善基準告示が厚生労働省より告示され、2024年(令和6年)4月から適用となります。トラック運転者は、運転や積込み・積み降ろし、検品等の労働時間だけではなく、荷待ち時間等の待機時間(手待ち時間ともいわれます)は、休憩時間とは違い、労働から解放された時間ではないため労働時間+待機時間で拘束時間を規定する内容になっています。年間の拘束時間の上限が従来の3516時間から原則3300時間、最大3400時間と厳しくなり、労働基準法の時間外労働上限960時間とあわせて遵守しなければなりません。改善基準告示は、厚生労働省の告示であり国会の承認をえた法律ではないため罰則規定はありませんが、悪質な場合は、厚生労働省、労働基準監督署から行政指導を受けることになります。特に大手企業の場合は、改善基準告示違反で行政指導が公表され、ニュースで報道されてしまうことから絶対に守らなければならない項目です。
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10.まとめ
①時間外労働上限960時間、②2024年(令和6年までの猶予)、③罰則規定のいづれも労働基準法で定められており、政令や省令ではないことが分かったかと思います。基本法の中で規定されるということは、長時間労働を何としてでも是正しなければならないという本気度が伺われます。特に月100時間以上の時間外労働が脳疾患などの過労死につながることから、法律を順守して雇用される労働者の心身を守っていかなければなりません。2021年度の脳・心疾患の労災認定件数は172件中、運送業が59件で、製造業の23件、卸売業の22件、建設業の17件に比べてダントツに多いです。送料無料、明日届いて当たり前の考え方から物流には相応のコストがかかっておりそれを負担していかなければならないという考え方の転換が必要になってきます。
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