③物流情報(コンプライアンス)

軽貨物ドライバーの安全対策・労働環境の保護


最終更新日 2024年1月9日


貨物軽自動車運送事業適正化協議会
貨物自動車運送事業法第2条4項に規定される貨物軽自動車運送事業は、一般貨物自動車運送事業と異なり最低軽貨物ドライバーとして運送会社に所属されている方もいらっしゃいますが、昨今のフリーランスやギグワークといった個人事業主(いわゆる1人親方)が大半を占めています。これらの個人事業主の軽貨物ドライバーの安全対策を徹底するために、国土交通省は貨物軽自動車運送事業適正協議会を立ち上げ新たな法制化に取り組んでいます。

1.貨物軽自動車運送事業とは

貨物軽運送事業とは②
貨物軽自動車運送事業とは、軽トラック、軽自動車、125cc以上のバイクを利用して、荷物を指定された場所へ運送する事業のことを言います。運輸局へ申請をして正式な許認可を取得した人だけがこの事業を行うことができます。貨物軽自動車運送事業は、法人でなくても個人でも始めることができます。許認可を取ると、黒ナンバーと言われる事業用ナンバーをもらうことができます。自動車1台から始めることができますので、昨今の宅配便取り扱い個数の増加に伴って新規で開業する個人事業主の方が増えています。貨物車のみに限定されていましたが、2022年10月から5ナンバーの軽乗用車でも貨物軽自動車運送事業ができるようになりました。

・軽貨物車両自由化(2022年10月開始)

 

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2.軽貨物ドライバーは労働基準法の対象外

労働基準法の対象外
労働基準法第9条で労働者とは事業または事業所に使用されるもので、賃金を支払われるものを言うと定義されています。サラリーマンとしてどこかの運送会社に所属をして軽貨物ドライバーを行う場合は、この労働者と言う定義が適用され、労働基準法の適用になります。一方、個人事業主の場合は元請け運送会社とは業務委託契約を結ぶいわゆる請負での労働形態となります。請負としての働き方は、民法632条に規定されているように、受託した仕事を完成させることが請負の仕事となります。軽貨物ドライバーの仕事では、荷主もしくは元請け運送事業者から委託された個数をお客様にお届けすることになります。お届けする個数によって料金が決まりますので、働いた時間は関係ありません。従って1日4時間しか働かなくても良い場合もありますし、12時間、15時間働かなければならないといった状況も出てきます。これは荷主や元請け、運送事業者との契約で決まりますので、個人事業主がその契約を受けるか受けないかを決めることができます。以上のように、個人事業主である軽貨物ドライバーは労働基準法の対象外で、2024年問題と言われる時間外労働年間960時間の規制からも対象外になっています。ただし、請負契約とは名ばかりで、業務遂行場の指揮監督が元請け運送事業者にあったり、勤務時間の裁量が低く時間の拘束性があると判断された場合は、契約ではなく雇用契約であったと判断されるケースも出てきています。
労働基準法は対象外ですが、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)は、罰則規定こそありませんが、個人事業主の軽貨物ドライバーも対象となりますのでこの部分は勘違いしないようにしなければなりません。特に委託側の荷主や元請運送事業者が明らかに、改善基準告示を守れないような条件で委託をした場合は、トラックGメンからの働きかけや要請の対象となり社名も公表されます。

・軽貨物ドライバーは時間外労働年間上限960時間の規制対象外

 

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3.増加する軽貨物車

EC市場 宅配便取扱個数
 
EC市場の拡大に伴い、宅配便取り扱い個数が近年急増しています。他方、宅配便の不在再配達が全体の11~12%発生しています。宅配便取扱戸数の急増によって軽貨物ドライバーの需要が大きく高まり、他業種からの参入もしくは一般貨物ドライバーから軽貨物ドライバーへの鞍替えをするドライバーも増えてきています。軽貨物では長距離運送ができないため、高齢化に伴い宿泊を伴う運転を嫌がるドライバーが軽貨物へと流れる傾向もあります。このような背景から令和3年度の事業用貨物自動車の台数は一般貨物で1,004,000台、軽貨物車208,226台になっています。軽貨物車は平成28年から令和3年までの5年間で車両台数が31.4%も増加しています。
 
軽貨物保有台数の推移
 

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4.軽自動車の交通事故が増えている

軽貨物事故件数
 
このような軽貨物車の急増に伴って、自動車事故件数も増えてきています。軽貨物以外の貨物自動車の事故は減少傾向にあるのに対して、軽貨物車の事故件数は平成28年のから令和3年までの5年間で26.3%増えています。特に死亡・重症事故件数はこの5年間で一般貨物車は減っているのに対し、軽貨物車は83.4%も増えています。
一般貨物のトラックは準中型、中型等の運転免許が必要であるのに対して、軽貨物車は普通免許で運転することができます。また、軽貨物車の主流であるスズキのエブリイやダイハツのハイゼットカーゴは、ほとんとがAT車ですのでAT限定免許であっても運転することができます。運転歴の浅いドライバーが軽貨物ドライバーへ参入し、事故を引き起こしている可能性もあります。年齢層別事故割合を見ますと軽貨物車の場合は、20代が27.1%を占めています。
 
軽貨物死亡重大事故件数

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5.過酷な労働環境(国土交通省アンケート調査結果より)

アンケート調査結果
国土交通省が令和5年3月に軽貨物ドライバーの個人事業主に対し、輸送実態のアンケートを実施しました。1日200個以上荷物を配達する。ドライバーが通常で11%、繁忙期では26%も存在していました。1日の労働時間も9時間から10時間が18%、11時間から12時間が21%、13時間ら14時間が14%となり、総じて長時間労働の実態が伺えました。荷主による違反原因行為の状況として寄せられた意見としては、
・当日配る依頼数が達成できなかったら、次から仕事が来るので長時間かかってもやり切らないといけない
・仕分けをしないと、荷物が詰めないため、契約にない仕分け作業をやらざるを得ない
・時間厳守であり、時間に遅れてしまうと評価点が下がってしまい、次から仕事がもらえなくなる。そのため道路交通法に抵触してしまうような違反行為も行わざるを得ない。
といった意見が寄せられていました。委託をする側に優越的な地位があるため、個人事業主である軽貨物ドライバーは多少無理な条件であっても受け入れざるを得ない過酷な労働環境で働いています。
 

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6.フリーランス新法

フリーランス新法
組織に属さずに個人で働くフリーランスの労働環境保護を目的としたフリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス新法)が2023年4月28日に可決されました。
可決から1年半以内に政令で定める日から施行するということになっていますので、2024年度中には施行されるといわれています。その内容は、特定受託事業者(個人事業主)に特定業務委託事業者が発注する際には、契約内容を書面化する、60日以内に支払う、中途解約の予告義務、減額、買いたたきの禁止といった下請法に近い内容が取り決められています。フリーランス・トラブル110番設置してそこで受けた内容をもとにして公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が特定業務委託事業者(発注者)に対して調査、指導、勧告を行うとしています。また、この法律には罰金も規定されています。
 

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7.現行制度の問題点

問題点①
貨物軽自動車運送事業(軽貨物)と一般貨物自動車運送事業(一般貨物)の主なルールについてまとめてみました。一般貨物の場合は、運行管理者による点呼を出発前と出発後に行っています。軽貨物の場合は、運行管理者の選任が義務付けられていないにも関わらず、点呼は義務付けられています。個人事業主が1人でドライバーをしている事業形態ですので、実質点呼と言うのは実施が難しいです。また、一般貨物の場合は、アルコール検知器によるチェックを行っています。500mlのビールのアルコール消失時間は約4時間と言われています。一般貨物のドライバーは点呼の際にアルコールのチェックがありますので、これを考慮して翌日乗務がある場合はアルコールを控えます。軽貨物の場合は、点呼すらなかなかできてない状況ですので、乗務前にアルコールチェックを行っているかどうか疑問です。一般貨物の場合は車検にプラスして3ヶ月に1度定期点検を行わなければなません。これを怠っているとトラック協会の巡回指導で厳しく指導され、さらには監査対象になることもありますので、徹底して行われています。1人しかいない個人事業主で3ヶ月に1度の日常点検をしっかりできる体制がとられているかどうかと言うのもなかなか難しいです。このように法令では定められているのですが、ドライバー1人しかいない個人事業主ではけん制をするものがいないため実質、対応が難しいです。
 

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8.軽貨物ドライバーへの働きかけ

軽貨物ドライバー働きかけ
軽貨物車の事故増加を踏まえて、は令和4年10月3日付で周知徹底を図る文書を発行しています。
その内容は
①管理の実施として、乗務前後における、運転者に関する指導監督、適切な労務管理や健康管理
②安全運転の遵守として、道路、交通法遵守した運転の指導
③点検整備の実施として、日常点検定期点検及び必要な整備の実施。10台以上の軽貨物車所有する場合は、整備管理者の専任
を国土交通省自動車局名で全日本トラック協会、全国赤帽自動車、運送協同組合連合会、日本経済団体連合会、日本通信販売協会、日本フード、デリバリーサービス協会宛てに送付しています。
 

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9.安全対策の強化に向けた法制化

安全対策に向けた法制化
現在国土交通省では軽貨物事業者への安全対策を徹底するため、次のような内容を法制化することを検討しています。これが罰則付で施行された場合は、一般貨物と比べてもほぼ同じような内容となるので、対応ができない軽貨物運送事業者は、廃業せざるをえなくなります。トラックドライバー不足になる可能性があります。

①.貨物軽自動車安全管理者(仮称)の選任と講習の受講の義務付け
営業所ごとに貨物軽自動車安全管理者(仮称)を選任し、以下2つの講習受講を義務付ける。
(1)管理者講習(仮称)  管理者の選任にあたり受講
(2)管理者定期講習(仮称)2年ごとに受講
②.国土交通大臣への事故報告の義務付け
死傷者を生じた事故等、一定規模以上の事故について、運輸支局及び運輸局を通じて国土交通大臣への報告を義務付ける。
③.国土交通大臣による輸送の安全情報の公表
事業者に対して発出した輸送の確保命令や行政処分の情報等を 国土交通省ホームページにて公表する。
④.運転者への適性診断の受診を義務付け
一般貨物等の運転者に義務付けている適性診断を軽貨物の運転者にも義務付ける。
(1)初任診断(業務開始にあたり受診)
(2)適齢診断(65歳以上の運転者が3年ごとに受診)
(3)特定診断(事故を起こした場合に受診)
⑤.業務記録及び事故記録の保存義務付け
(1)毎日の業務開始・終了地点や業務に従事した距離等を記録した業務記録を作成し、1年間の 保存を義務付ける。
(2)事故が発生した場合、その概要や原因、再発防止対策を記録し、3年間の保存を義務付ける。
 

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10.お知らせ

お知らせ③
当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。
 

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。