物流下請法とは何か

1.「物流下請法」という言葉について

物流下請法とは、私(行政書士 楠本浩一)が提唱している独自の呼称(制度概念)です。法律上の正式な名称ではありませんが、荷主と物流事業者の間の取引関係に適用される複数の制度を総合的に捉えるための実務用語として使用しています。

従来の下請法という言葉は、正式名称「下請代金支払遅延等防止法」を指します。昭和31年(1956年)の制定以来、現場では広く下請法>という呼び方が定着してきました。令和8年(2026年)1月の改正施行により正式名称から下請という文字は消えましたが、実務に馴染む呼称として、当事務所では引き続き下請法と呼び、さらに物流分野に特化した場合に物流下請法という名称を用いています。

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2.物流下請法の構成要素

物流下請法という制度概念には、以下の2つの枠組みを含めています。

①取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律、旧下請法)における「特定運送委託」

2026年1月の法改正で新たに追加され、荷主から運送事業者への運送委託が下請法の適用範囲に入りました。これにより、これまでの製造委託や修理委託と並んで、運送の委託契約そのものが直接規制対象となります。荷主は、運送は外注だから自社に関係ないと考えることが許されなくなり、契約内容や委託実態の適正化が強く求められます。

②物流特殊指定(特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法 公正取引委員会告示)

平成16年(2004年)に施行され、荷主が物流事業者に不当な負担を押し付ける行為(代金の不当減額、無償作業の強要など)を禁止する制度です。これまで警告や確約計画の認定といった行政対応が実際に行われており、荷主の取引姿勢が直接問われる重要な法的枠組みとなっています。

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3.物流下請法の意義

物流下請法という呼称(制度概念)を用いることで、荷主と物流事業者を取り巻く法規制を1つの包括的な視点で理解し、実務に直結させることができます。

荷主 運送委託 下請法
倉庫における保管委託 物流特殊指定
物流事業者 運送委託 下請法
倉庫における保管委託

長時間の荷待ち、多重下請構造、コスト転嫁の適正化、契約内容の不備、口頭発注などの問題を是正し、荷主自身がコンプライアンスの主体として取り組む。

これが物流下請法という制度概念を提唱する狙いです。

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4.用語の取り扱いについて

当事務所では、実務の分かりやすさを重視し、以下のように旧来の呼称を用いて説明しています。

取適法での呼称 当事務所での呼称
取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律) 下請法物流下請法
委託事業者 親事業者
中小受託事業者 下請事業者
製造委託等代金 下請代金

これは、現場において依然として親事業者下請事業者下請代金という呼び方が定着しており、読者の混乱を避けるための実務的配慮です。

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5.まとめ

物流下請法は法令の条文そのものではなく、現場に即した包括的な理解を進めるための制度概念です。2026年1月の法改正により、荷主と物流事業者の関係はこれまで以上に厳しく問われます。荷主企業にとっては、物流は外注だから関係ないの時代は終わり、自らの法令遵守と取引の適正化に責任を持つ時代が始まります。

当事務所では、独自に開発した荷主の物流委託チェックシートや研修会を通じて、荷主の皆様が安心して物流委託を行える体制づくりをサポートしています。

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・2025年12月「物流下請法」の本を出版します
・【2026年1月から適用】製造・流通業の荷主企業が知っておくべき運送委託に関する下請法改正のポイント
・荷主のための物流下請法対応マニュアル
・物流下請法!適用開始は2026年(令和8年)1月から
・運送業コンプライアンスマニュアル(運送業2024年問題対応)
・物流下請法の誤解と真実
・物流法務担当が見た荷主視点のコンプライアンス
・【製造業は要注意】物流下請法違反は法人や個人にも刑事罰が及びます