⑤コラム

【コラム】軽貨物ドライバーも労働安全衛生法の保護対象へ


最終更新日 2023年11月27日



この記事は、朝日新聞及び日本経済新聞2023年8月1日(火)朝刊の記事を元に書いています。
7月31日の厚生労働省の有識者会議で大筋了承され、今までは企業に雇用された労働者のみが対象であった労働安全衛生法がフリーランスや個人事業主も保護される見通しとなりました。今後、国会で審議を経て、労働安全衛生法の改正が行われる予定です。
多くの軽貨物ドライバーは個人事業主(フリーランス)として、大手通販会社や大手宅配事業者、元請運送事業者と請負契約を結んでおり、仕事の完成によって請負代金を払うとされています。1個配達して○○○円という単価が設定されており、出来高によって請負代金が支払われます。請負契約とは、仕事の完成に至る工程は受託の軽貨物ドライバーの裁量により決められなければなりません。例えば、約束の個数を配達が午前中ですべて完了すれば、午後からは別の仕事をしても遊んでも何をしてもいいという形態です。
ところが、宅配を始めとする軽貨物ドライバーの労働形態は、配送方法や配送ルートの詳細の指定があったり制服の着用を義務付けられたりと企業の労働者とおなじような働き方を委託事業者から求められることが少なくありません。
そのような背景から、請負契約者であるにもかかわらずアマゾン配達員労働組合が結成され労働条件改善を申し入れる動きがみられていました。大手の元請運送事業者でも労働基準監督署から業務委託の違法性を指摘され、是正勧告を受けています。

このように、フリーランスの委託契約でありながら実態は労働者と同じような働き方をしているのに、仕事中におきた労働災害に対して一切の補償がありませんでした。ある軽貨物ドライバーは配達中に骨折し、約2か月間働くことができませんでした。現状の法律では、雇用された労働者であれば労災保険の対象となりますが、フリーランスのため一切の補償はなく、その2か月間は収入がゼロになってしまいます。フリーランスが特別加入できる労災保険は100%自己負担で、企業が100%保険料を負担する労働者とは条件が異なっており、加入していないフリーランスの方も多いです。
今回の労働安全衛生法の改正では、ここまで踏み込んだ改正ではなく、その前段階の改正案になっています。具体的には、①フリーランスが仕事中に事故に遭った場合は、委託した企業が国への報告を義務づける。②企業に義務付けられた労働災害を防止するための措置をフリーランスへも広げる。③国がフリーランスに年1回の健康診断受診を促す。長時間労働のフリーランスから求めがあれば委託企業は医師による面談の機会を作る。等です。特に①の労災報告は、国が事故件数を把握できるようになるので、労災保険適用など次のステップに進む大きな前進であるといえます。
ただし、注意していただきたいのは、フリーランスは独立した自営業者で企業に雇用される労働者と同じ保護は必要ない。というのが今までの考え方で、この基本が大きく転換して労働者と同じ条件で保護されることはありません。軽貨物ドライバーに裁量権がない受託形態になっているのが、そもそもの原因でこのような法改正や労働基準監督署の是正勧告が行われているのであって、請負契約で働くフリーランスは、雇用される労働者と同等の補償
を求めることができない。ということを認識しておいたほうがいいです。ただ、フリーランスには、雇用されないメリットも多くありますので、そのメリットを享受するかわりにデメリットも受け入れないといけないのが現状の請負制度です。

当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。