令和5年度 公正取引委員会からの物流特殊指定書面調査
令和5年9月29日付で公正取引委員会より公取企第174号として物流事業者との取引に関する調査についてという内容で荷主企業宛に物流特殊指定の書面調査がおこなわれています。この書面調査は毎年10月に実施されているもので製造業や流通業、卸売業などの荷主企業と呼ばれている事業者約3万社にランダムに送付して、現在の物流取引の状況、物流特殊指定に違反していないかを調査する内容になっています。このような調査票が公正取引委員会から届いた場合にはどのような対応を行うのがよいのか?、回答しなければどのような措置がとられるのか?について、過去10年以上、物流特殊指定の書面調査に携わってきた筆者が解説していきます。
1.物流特殊指定とは
物流特殊指定とは、平成16年(2004年)の下請法改正によってこれまでの製造委託取引のみから、物流、ソフトウエア、情報成果物の委託などの役務提供委託も対象とされたことにより、新たに制定されたものです。正式名称は、特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法といい、独占禁止法の一部としての位置づけのある公正取引委員会の告示のことを物流特殊指定と呼んでいます。製造業や流通業などの荷主企業は、物流を業としていないため物流委託は下請法の対象外となります。荷主企業が物流事業者に対して下請法で禁止されている買いたたきや不当な減額を行っても取り締まる法令がなかったため、公正取引委員会は物流特殊指定という告示をもって、下請法に該当するような行為を禁止しています。下請法での義務や禁止されている行為の中でも物流特殊指定で禁止されていない行為もありますが、それらの行為でもあまりにも度が過ぎる場合は、独占禁止法の優越的濫用の禁止で取り締まることができるとされています。物流特殊指定には罰則規定がありませんが、違反を行った企業には公正取引委員会から立入検査が行われその結果、勧告や指導に至る場合があります。勧告が行われた場合には公表されますので、特に大手企業などは、ホームページでの謝罪や今後の対応の掲載など、多くの関係者がこれらの対応に多大な時間を割くことになります。
物流特殊指定については、詳細をまとめたページがありますので、そちらを参考にしてください。
・物流特殊指定マニュアル
・物流特殊指定事例集
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2.物流特殊指定の対象について
荷主から受けた仕事を元請物流事業者が下請物流事業者に委託する場合は、元請物流事業者は物流を業としているので、下請法の対象となります。物流特殊指定の対象となるのは、物流を業としていない、製造業や流通業などの荷主企業が物流事業者に継続して物流委託する場合が対象となります。1回限りのスポット取引では、物流特殊指定の対象にはなりません。
また、下請法と同様に資本金区分により優越的な立場であるかどうかを判断しており、資本金3億円超の荷主企業は、資本金3億円以下の物流事業者に対して物流委託をする場合、資本金1000万円超3億円以下の荷主企業は、資本金1000万円以下の物流事業者に対して物流委託をする場合に物流特殊指定の対象となります。物流特殊指定では、取引上の地位が優越している荷主から取引上の地位が劣っている物流事業者に対して物流委託をする場合は、資本金区分に関係なく物流特殊指定の対象になるとされています。この項目はあいまいな表現のため取引上の地位が優越しているのはどの程度優越している場合に対象になるのかが、はっきりしていません。公正取引委員会の判断で物流特殊指定の対象となってしまう場合もありますので、資本金区分で対象外であっても注意が必要です。
また、産廃収集運搬事業者や乙仲業者(取次(仲介)業者)との取引も運送や保管の委託をしている場合には、物流特殊指定書面調査の対象となるとされていますので、これらの取引も物流特殊指定の対象となると考えておいたほうがいいでしょう。
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3.物流特殊指定書面調査の目的
公正取引委員会は、毎年10月に荷主企業約3万社、翌年の1月に物流事業者約4万社に対して物流特殊指定の書面調査を行っています。荷主企業の書面調査では回答の内容を通じて物流特殊の違反行為がないか、適正な物流委託がおこなわれているかを公正取引委員会がチェックします。また、1月の物流事業者向けの書面調査では、物流特殊指定に違反している荷主企業名を調査、違反している行為の内容について書面調査で把握します。荷主企業の調査及び物流事業者の2つの調査を確認したうえで、立入検査や文書での警告を行っています。令和4年度の物流特殊指定書面調査の結果、物流特殊指定違反に係る事案があるとして、公正取引委員会は、777社に対して文書での警告、より悪質な事案として独占禁止法の優越的地位の濫用にあたるとして14社に注意喚起を行っています。
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4.書面調査の設問及び回答項目の内容
下記の表のように10設問の中に33の回答項目があります。令和4年度は、物流事業者による下請物流事業者への再委託についての回答項目が4つ新たに加わりました。これは物流業界の多層下請構造が問題になっており、荷主企業がその実情を把握して、何次下請の運送事業者が実際にトラックを走らせているかを把握した上で委託しているかについて回答を求める内容でした。令和5年度は、再委託に関する設問及び回答項目がなくなっています。再委託は季節要因や需給状況によって元請運送事業者が自社のトラックで運送できない、やむ負えない事情の場合に再委託をするのであって、書面調査に回答する荷主企業がそこまで把握しきれない実情があり、この回答項目が削除されたのかと考えます。
令和5年度では、設問2の運賃・料金又は保管料の額の決定についての回答項目が3項目から8項目へと増えています。今回、新しい設問内容として、荷主が非化石エネルギー自動車(電気自動車、水素自動車、プラグインハイブリッド自動車など)による運送を委託した場合に運送事業者から導入によるコストアップのために運賃の値上げを求められた場合に、値上げを認めず、従来価格を据え置いたことがありますか?といった設問がありました。
令和5年度から新たに追加された項目として労務費やエネルギーコスト(軽油・ガソリン)の上昇を理由として値上げを要求され、満額値上げを認めなかった理由についての回答項目があります。選択項目として①会社の予算上の制約、②最終需要者への転嫁が困難、③他の物流事業者が低い運賃を提示、④労務費やエネルギーコストの上昇を理由とした引き上げは認められない、といった内容でした。
その他の項目は、昨年度以前かたの設問・回答項目とほぼ同じで物流特殊指定で禁止されている内容についての設問になっています。
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5.書面調査を提出しないとどうなるのか
下請法の書面調査は、書面調査が届いた事業者は下請法第9条に基づき回答する義務があります。対して物流特殊指定にはそのような内容はなく、書面調査にも協力依頼と書かれていることから書面調査を提出しなくても罰則や公表といった制裁を受けることはありません。ただ未提出の場合は、締切後、書面調査提出を督促するハガキが届くことがあります。荷主企業の書面調査が未提出で取引先の物流事業者が書面調査でその荷主に対して問題のある回答をした場合には、警告文書送付や立入検査が行われる。といったことも想定されますので、物流特殊指定や独占禁止法に違反するような物流委託を行って無いのであれば、きっちりと回答しておけば、公正取引委員会の印象もよくなりますので、期限を守って提出しておくことをお薦めいたします。なお、書面調査の封筒は、担当者や担当部門宛に送付されるのではなく、会社の代表者宛に送付されます。大きな企業の場合は、適切に物流部門や法務部門などの担当する部門に渡るようにしておくようにしなければなりません。
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6.最後に
物流特殊指定の書面調査は年1回定期的に行われています。大手企業の場合はほぼ毎年、調査の対象になります。書面調査の回答用紙が届いたら、設問や回答項目に回答しながら、物流事業者への委託内容について、見直すべき項目がないかどうか、確認をしながら回答していくようにしましょう。年に1回の健康診断のようなもので自社の業務の自主チェックも合わせて、行うようにしていきましょう。また、回答内容によっては、非常にセンシティブな項目もあり、物流特殊指定違反の1発アウトになってしまうような回答もあります。現場のみで判断して回答して送付するのではなく、必ず、専門部門や責任者が最終チェックをしたうえで、提出するようにしてください。
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7.書面調査の対応でお困りの方へ
公正取引委員会から書面調査が届いたがどのように対応したらよいかわからない、前任の担当者と引継ぎができておらず初めて対応することになった。など、書面調査の対応でお困りの方がおられましたら有償にてサポートをさせて頂いております。過去10年に渡って毎年、書面調査の分析をしており、書いてはいけないNGな回答例等ありますので、そちらも合わせて確認をさせていただきます。一度、ご連絡ください。
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8.お知らせ
当事務所は、運輸・物流専門の行政書士事務所として、貨物運送業・利用運送業(第一種・第二種)、軽貨物運送業の許可・認可及び倉庫業許可・登録を行っています。運送業・倉庫業に興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをお願いいたします。許認可取得だけでなく、開業後の業務運営や運賃設定、運賃交渉のやり方、元請運送事業者の紹介、法律で定められた書類作成の支援などをサポートさせて頂きます。
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