③物流情報(コンプライアンス)

60時間を超える時間外労働割増賃金


最終更新日 2023年6月26日



働き方改革の一環として、2023年4月より月60時間を超える時間外労働の割増賃金率がすべての企業を対象に50%になりました。俗に2023年問題と呼ばれる法改正が既に施行されていますが、企業の対応、この法律が適用される法的根拠について説明をしていきます。

【目次】

1.2023年問題とは
2.中小企業の定義
3.労働基準法第37条
4.中小企業の猶予規定
5.2023年(令和5年)4月1日からの適用
6.おわりに

 

1.2023年問題とは

2023年問題とは、2023年4月から中小企業(各業種によって資本金区分は異なります。)に対して時間外労働割増賃金の猶予が撤廃されて、大企業と同じになります。時間外労働の割増賃金率は25%、時間外労働で60時間を超える部分についても、2023年3月までは猶予期間として同じ25%の割増賃金率を適用しても、よいことになっています。この猶予期間が終了し2023年4月からは大企業・中小企業を問わず、月60時間超の時間外労働には50%の割増率を払わなければならなくなります。
これは、物流業界に限られたものではなく、すべての業界に共通することですので、物流業界に限った大きな法制度の変更である2024年問題とは区別されます。
 

 

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2.中小企業の定義

2023年3月まで猶予されていた中小企業ですが、どのような企業が中小企業に該当するのかは、中小企業基本法第2条で中小企業者の範囲が定められています。運輸業の場合は、製造業、建設業と同じく資本金が3億円以下、もしくは従業員が300人以下の企業を中小企業と定義し、従業員が20人以下の場合は小規模事業者とされています。
大企業は、法律上の定義はなく、中小企業以外の企業がすべて大企業になります。大企業というと東証プライム、グロース、スタンダードに上場している企業を想像しがちですが、それ以外にも多くの企業が法律上の大企業に該当します。
これらの中小企業の定義は、あくまでも中小企業基本法に基づく中小企業施策における基本的な原則であり、支援制度や補助金制度などは、中小企業の定義が異なる場合があります。

 

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3.労働基準法第37条

時間外、休日及び深夜の割増賃金については、労働基準法第37条で規定されています。
1か月の時間外労働が1日8時間、1週間40時間を超える労働をさせた場合には、25%から50%の割増率を払わなければならないとされていて、多くの企業が法律で定める最低ラインの25%の割増率を時間外労働手当として払っています。これが月60時間を超える分の時間外労働については、50%以上の割増賃金を払わなければならいとなっています。この項目の改正が2010年4月から施行されていますので、大企業は13年前から労働基準法第37条第1号に基づいて支払いをしています。
 
<労働基準法第37条第1号>
 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
 

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4.中小企業の猶予規定

中小企業以外の大企業には、2010年から適用されている労働基準法第37条第1号の60時間超割増率50%の適用は、労働基準法第138条によって適用除外とされていました。また、第138条には明確な時期を設定せずに、「当面の間」として、その後の経済状況を判断して実施時期を決めるとしていました。
第138条は、2018年(平成30年)7月6日の改正により条文がまるまま削除され、現在は欠番になっています。労働基準法の条文を見るとわかりますが、第137条から第139条にいきなり飛んでいます。
 
<旧第138条(2018年(平成30年)の改正で削除)>
中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第37条第1項ただし書の規定は、適用しない。
 

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5.2023年(令和5年)4月1日からの適用

上記の労働基準法第138条削除にあわせて、中小企業の猶予撤廃の期日が2023年(令和5年)4月1日と決まりました。これに伴って、2018年(平成30年)7月6日の法律第71号の附則(労働基準法の附則)に猶予撤廃の期日が記載されました。この、附則に基づいて、2023年問題と騒がれていた猶予撤廃の期日が確定したことになります。
 
<附 則 (平成30年7月6日法律第71号) 抄>
(施行期日)
第1条 この法律は、平成31年4月1日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
1.略
2.略
3.第1条中労働基準法第138条の改正規定 令和5年(2023年)4月1日
 

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6.おわりに

厚生労働省のパンフレットやインターネットをみていても、時間外労働の割増規定についてのルール変更が記載されているのですが、それの根拠となる法令の名称や条数が記載されている記述がなかなか見当たらないため、社内で推進されている部門の方が現場に落とし込む際に説得ある説明がしづらいかと思います。今回の記事で、中小企業の時間外労働割増賃金の猶予撤廃が2023年(令和5年)4月1日とされた時期やその決定が法令のどの部分に盛り込まれたかを説明して参りました。この記事が、ご担当されていらっしゃる皆様のお役に立てれば幸いです。
尚、当事務所は、代表が物流業界で20年以上経験があり、運送・物流専門の行政書士事務所です。物流の労働問題の第一人者としてメディアへの掲載実績もあり、常に実務目線から発信しています。研修会開催、現場での打ち合わせや公的機関の監査対応などの支援か可能ですので、興味ございましたらお問い合わせをお願いします。
 

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楠本浩一

楠本浩一

1965年8月兵庫県神戸市生まれ。同志社大学卒業。パナソニック㈱及び日本通運との合弁会社であるパナソニック物流㈱(パナソニック52%、日本通運48%の合弁会社、現パナソニックオペレーショナルエクセレンス㈱)で20年以上物流法務を担当し、現場経験を踏んできた実績があります。